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用地取得 達人への道

「さて今年はじめて用地取得交渉をまかされたけど、やったことがないしどうしよう…」
新人の用地職員にはつきものの悩みですね。でも心配ご無用。
本稿では用地取得交渉の手順とコツを詳しくご紹介します。

ベテランの門をたたくvol.1 若者の離職問題の核心

2020年05月20日 公開

  • 「成長」に含まれるニュアンス
  • 失われた30年による人材不足
  • ベテランと若者の仕事観、生き方の違い

用地取得交渉の手順やコツ等を詳しくお伝えしている「用地取得 達人への道」。今回からシリーズ第4弾です。前シリーズでは用地取得マネジメントの運用を学び、視野を広げた田中。ただ、目的である若者の離職を食い止めるための用地研修の中身をどうするか...糸口はまだ見つかっていません。今回は田中が博士から投げかけられた"成長"という言葉をキーワードに、用地交渉のベテランから多くの経験談を聞き取ります。その中には人材育成に関わる重要なヒントも。田中の成長を感じながら、ぜひ最後までお読みください。


『チーム用地』の用地取得マネジメントの会議に参加し、用地交渉の現場の温度を肌で感じた田中。現場の用地部門に配属された若者が離職していってしまう...との悩みを解決する用地研修の内容はまだできていないものの、そのヒントは「チーム用地にある」と提案の糸口を掴んだ様子だった。

ただ、博士からは「成長という言葉もキーワードだよ。ハードルは高いほうが良い」と言われただけで、この次の動きは全く指示されなかった。

「途方に暮れるとはこういうこと...」

田中は自分の気持ちを正直に、はっきりと声に出してみた。

「博士から『成長』がキーワードといわれた瞬間は、大切なものを手に入れたときくらいに何かを掴んだ感覚があったけれど、今は特に何も浮かんでこないからどうしようかな」

悩みながらも、一歩一歩と思考を進めばいつか解決にたどり着くはずと、田中は思うがままに頭の中で進めてみることにした。

「成長」に含まれるニュアンス

会議に参加して色々と学ばせてもらった『チーム用地』の用地取得マネジメント。でも実際に用地研修に結びつけようとすると、なかなか難しい。

用地事務や補償事務、もっと狭く言うなら用地交渉。それらと「成長」のキーワードがどう結びつくのか、全くイメージが湧いてこない。

「どうしたらいいんだろう。成長、成長、成長...」

口ずさんでみたところで、何のヒントもない。とにかく頭が真っ白のままで唸っていても仕方がないので、まず「成長」の意味を考えてみることにしよう。何かヒントを見つけて、とりあえず県への提案のためにどうするか次の動きを考えなければ。

「まず、成長するといえばどういうこと?」

ビジュアルに対して成長という言葉を使うときは、背丈や体全体が大きくなることを指している。でも、単に見た目が大きくなることが「成長」ではなくて、「成長」という言葉にはそれ以上のプラスのニュアンスがある。

身長が伸びるのは確かに成長だけど、歳を取るのは成長と言わない。太りすぎるのも成長とは言わない。経済成長なんて言葉がよく使われるけど、GDPが数値として伸びていることだけを指すんだろうか?

1960年代から1990年までの日本は"成長神話"なんて言われていた。人口が増え続けることも成長なんだろうな。今は人口が減少し、世帯が減少し、その裏返しで空き家がものすごい勢いで増えている。でも空き家件数が「成長しています」なんて言わないなぁ。

現代社会では、経済成長と地球環境のせめぎ合いとも言われている。持続可能な発展だけが「成長」となんだというSGDsが大きな流れとなってきているけど、実際は地球資源をどんどん浪費している国だけが勝利者になっているんじゃないか(あれ?そもそも考えないといけないのはそういうことじゃない...)。

人材の話をするときなどに「人間的成長」ということもある。「人間的」ってわかったようで具体的に何を指すのかはっきりしないけれど、「子どもっぽいことばかり言っていないで、大人になって」なんていう文脈とはちょっと違う気がする。大人になることが人間的成長ではないよね...。この辺は建前と本音の使い分けが難しそうだ。

学校や会社なら、今までできなかったことができるようになることを成長という。でも、「人間的」かどうかは別問題だよね。一昔前までは知識が増えることも成長だったのだろうけど、今はどうなんだろう?パソコンやスマホで検索すればどんなことだってだいたいの内容はわかる時代になっている。体系化された知識や智恵、英知といったものが自分の中に落とし込まれていないと成長とは呼べない気がするけれど、じゃあ、そもそもどんな知識が「英知」なの?

たぶん、本当にたぶんだけれど、博士は若者が仕事を通じて、特に用地という仕事を通じて得られる「成長感」、そのベースとなる「達成感」や「自己肯定感」も感じられずにいると伝えたかったんだろう。自分の成長をきちんと認識できるようになる研修を考えろということなんだろうなとは思う。でも、「仕事を通じて感じる成長」をどうやったら「研修を通じて身につける」ことができるのだろう。

じゃあ、そもそも、私はどんなときに成長を感じてきたんだろう。いつも愚痴ばかり言って成長していないのではないだろうか。いや、昔に比べれば仕事上でできることは確実に増えているし、他人とのコミュニケーション技術もそれなりに身につけてきたつもり。でも、自分で成長したと胸を張れるわけでもないし、かといって、仕事が嫌だ、辞めたいと思ったこともない。

「...まるで哲学だ。何を考えていたんだっけ。」

研修の内容を考えているのに、思考がどこに向かっているのかわからなくなってきた。でも、成長がキーワードだし、思考が続くのならその流れで考えていくのもアイデアにつながるかもしれない。もう少し続けてみよう。

失われた30年による人材不足

先日、研修を依頼してきた県の担当者に聞き取りをしたとき、「世代間の断絶が若者の離職を生んでいる」と言っていた。

最近採用された若者と、再任用のベテランの話が全くかみ合わないということだった。それがなぜ起こっているかというと、経済の高度成長から低成長へ、そして失われた30年へ。公共事業の最盛期から抑制期へと変化があり、公務員が定員削減された時代があった。ベテランと若間の間を埋める中間世代の用地職員がいない原因は、まさにそれなんだ。

つまり、その定員削減でいなくなってしまった中間世代。その人たちが今、用地の現場にいないことが今回の悩みのポイントになっている。人がいないから、ベテランと若者とのコミュニケーションを困難なものにしてしまっているんだよね。

人が居ない=そこが問題の核心。それは間違いない。

20200519 deta_prep_btrn1.jpg出所「平成31年度地方公共団体定員管理調査結果」より(総務省)

ベテランと若者の仕事観、生き方の違い

人材不足という事実だけでなく「成長」というキーワードも含めて考えるとなると、また違った面が見えてくる気もする。

◯団塊世代のベテランたちは、日本の「高度成長」期を生きてきた世代。その自負があるから自信と誇りを持ち、「やればできる。今の日本を作ったのは俺たちだ」と強い自己主張をする。

〇若者世代は、「失われた30年=低成長」の中でしか生きたことがない。「これが経済成長だ!」という状況、雰囲気を感じたことがない。

若者は、日本が世界に冠たる存在感を持って成長していた時代を一切知らない。閉塞感漂う世の中でコンプライアンスばかり教えられ、失敗することを極度に恐れる人たちであるともいえる。

ベテランたちは、物が不足する時代に生きて、今という自分の時間を会社に売り渡し(=つまり長時間労働)、将来の夢(三種の神器だけでなく、マイカーやマイホームなど)を買い集めてきた。一方で、若者は物はあるけれど、生きる意味が足りない時代を生きてきた。

失われた30年世代の死亡の第一原因が「自殺」なのはそういう意味なのかもしれない。自分の時間を犠牲にして今の日本を築いてきた人たちに「働き方改革」が求められている今、ベテランたちは自分たちのやってきたことをどうとらえているのだろう。

つまり...、ベテランと若者で「成長」という概念が共有できていないのではないか?と考えることもできる。

というよりも、若者世代の人たちは「成長」を自分にも起こるものとして、ちゃんとイメージできているんだろうか?社会に出てから「成長」を実感したことがあるのだろうか?

単に人が不足して世代間が断絶していることに要因があるのではなくて、ベテランが若者に伝えて承継すべき「成長」が共有できていないからこそ、断絶がますます大きくなろうとしているのでは...。

問題の核心が見えているけれど、その周りがモヤモヤしている。

やっぱり自分でいろいろと考えて結論を出すには、限界がある。

「とりあえず誰かに話を聞かないと...。誰がいいかな?自分が若者なんだから、自分よりできるだけ先輩に聞くのが正しいよね。当社のベテラン...にとにかく質問しに行ってみよう!」

話を聞きたくて居ても立ってもいられなくなった田中は、自席を立ち、軽快な足取りで廊下へ向かった。


グルグルと頭の中で考えていた田中は、ヒントをもらうべく、大先輩に話を聞きに行くことにしました。当社にはベテラン人材がたくさんいますので、社内を歩けば、きっと誰か適切な人が見つかることでしょう。

誰にどんな話を聞いて、成長という言葉が意味するものを紐解いていくのでしょうか。シリーズの最後までお楽しみ下さい。

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