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用地取得 達人への道

「さて今年はじめて用地取得交渉をまかされたけど、やったことがないしどうしよう…」
新人の用地職員にはつきものの悩みですね。でも心配ご無用。
本稿では用地取得交渉の手順とコツを詳しくご紹介します。

チーム用地の用地取得vol.1_平成20年から変わらないマニュアル

2020年01月06日 公開

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用地取得交渉の手順やコツ等を詳しくお伝えしている「用地取得 達人への道」。今回からシリーズ第3弾が始まります。これまでのシリーズで博士からさまざまなことを学んでいる田中ですが、今シリーズでは用地取得マネジメントを一から学びます。用地交渉が未経験の田中ですが、どのようなステップを踏みながら基礎から学びを深めていくのでしょうか。シリーズを読み進めるとその成長が感じ取れます。ぜひ最後までお読みください。

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さて、博士から「国土交通省が通達している用地取得マネジメントとは違う我が社独自の『チーム用地』用地取得マネジメントを学び、その違いを調べてきなさい」と課題を出された田中は、未経験の用地取得マネジメントの世界に足を踏み入れることに。全く何もわからないところから、博士に報告できるレベルまで自分を成長させなければならないプレッシャーはありながらも、気持ちは前を向いていた。

入社時は経理担当者として採用された田中だが、途中から研修・知財担当に配置換えとなり、今はもう少し幅広く、さまざまな業務に関わりながら仕事をしている。しかし、未だ用地交渉は経験したことがなく、我が社で用地取得マネジメントが実際どのように運用されているのかは知らないままだった。今回博士から課題をもらったことで、やっと学ぶチャンスがやってきたのだ。

国土交通省が通達する用地取得マネジメントの学び方と、総合補償士が推奨する初心者向け勉強法について。用地取得マネジメントの公式資料の書籍名と読み解き方、用地取得マネジメントの始まり時期についても解説。

用地取得マネジメントの勉強なら、頼るべきは総合補償士!

「どこから手を付けようかな...。とりあえず会議に入れてもらって空気感を見るようにして、あとは空いている時間に文書をいろいろと読んでみようか」

全く初めてのことなのでどう段取りをつけていくか頭を捻りつつ、誰を頼っていくのがいいのか1人で作戦を立て始めた。やはりまずは会議への参加からといわれるから、マネジメント課長にマネジメント会議に入れてほしいと願い出なければ...。課長宛てにメール連絡を入れておきつつ、デスクでは国交省の用地取得マネジメントに関係する文書を読みながら知識を頭に入れていくことにした。

「国交省通知と言えば、用地補償関係者には必読といわれている『用地補償実務六法』から調べるのが手っ取り早いだろうなぁ」

実務書「用地補償実務六法」の目次をパラパラと引いてみるが、国交省の通知らしきものが見当たらない。勉強がしたいと思っているのに、いきなり壁にぶつかってし まった。ほかに読むべき本も知らないし、どうしたものか。

そのとき、ふと思い当たることがあった。以前聞いた話で、我が社にはたくさん補償業務管理士さんがいて、毎年、何人かが新規に補償業務管理士試験にもチャレンジし ている。けれど、全部で8部門もあるらしく、登録部門を増やしていくのが大変らしいと。その中でも、最近新しく創られた総合補償部門が最難関だという。そして、どうもこの総合補償部門は用地取得マネジメントを実施していくために創設された部門だということだ。

「ということは、総合補償士の資格を持った社員は用地取得マネジメントのスペシャリストということ。その社員に聞けば、何かキッカケがつかめるのかも?」

じゃあ、自分が聞きやすい総合補償士は?と順番に顔を思い浮かべると、やっぱり若手がいいなということになり、まずはいちばん若手の辻元係長に聞いてみることにした。

辻元係長は補償に詳しいだけでなく、設計・積算・ホームページ作りとなんでもこなすオールマイティな人材。さらに、仕事の手が早いときている。でもすごく人懐っこ い面があり、みんなからは"モッチーさん"と呼ばる人気ものだ。不躾な質問にも対応してくれるに違いない。

「用地取得マネジメント実施マニュアル」が頼みの綱

田中はモッチーさんが電話をかけ終えて少しパソコンから目を話した隙を見計らって、思い切って近寄り、準備してきたセリフを一気に話した。

「モッチーさん。私、博士から用地取得マネジメントについて調べてみろと指示されたけど何から手をつけていいかわからなくて、どうしようか困っているのよ。そういう調べものに使えるいい資料って何かないかな?」

いきなりの質問で驚かれると思ったが、頼るのはあなたしかいないというようなすごく困った顔をしながら聞いてみた。すると、モッチーさんは驚きながらも何も質問せずに、机の中から一冊の本を出してくれた。その表紙には「用地取得マネジメント実施マニュアル」(大成出版発行)と書かれている。かなり小さい本だ。
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「そういうことなら、これを読んでみて。今、公式資料は用地取得マネジメント実施マニュアルしかないですね。これしかないので仕方がないけど、白黒でかなり読みにくい本だから。がんばって読んでね」

その小さな本を受け取り、なんとなくパラパラとめくってみる。

「もっと厚い資料が出てくるものと思っていたら、こんな薄い本?しかもほんとに読みにくそう。図やグラフがいっぱい載っているし色分けもしてあるのに、なんでグレースケール?謎のモノクロ本だね。私のような素人にはちょっと何のことかわからないかもしれないな...。もう少し、読みやすいものはないの?」

それを聞いたモッチーさんの眼鏡の右端がきらっと光った...ように見えた瞬間、彼は急にスッと席を立ち、自席から少し離れたところのキャビネットの鍵を開けにいった。中から黄色い表紙のA4版サイズのそれなりに製本された資料を持ってきて、大事そうに両手で手渡してきた。

「これがさっきのモノクロ本の大元になった公共用地補償機構の報告書です。なぜ、そんなものがここにあるかって、そんな無粋なことは聞かないでくださいね。色々苦労したんですから。まあ、その事情については置いておくとして、この報告書はフルカラーですし、図もグラフも十分に大きいです。これならわかりやすいと思いますよ」

モッチーさんからモノクロの小さなサイズの書籍とA4サイズの報告書を受け取り、いざ読んでみることにした。とりあえず初見ではかなり読むのは大変そうな予感がするが、モッチーさんに頼ってしまって本を受け取った以上、もう読んでいくしかない。

通知が出されている時期に偏りが?

それによると、用地取得マネジメントは平成20年ごろから始まったのがわかった。平成20年3月策定の「国土交通省公共事業コスト構造改革プログラム」に次のように書かれている。

【あらかじめ明示された完成時期を目標とした経過的な用地取得を実現】
事業の計画段階から将来の供用までを見据えた周到な準備を行い、必要となる施策を適時適切に講じる「用地取得マネジメント(仮称)」を確立する。

これを読んで、まずは用地取得マネジメントの単語の後ろに仮称と付いていることが気になった。

「あれ?このときはまだ仮称...。じゃあ、いつ本称になって、正式な名前になったんだろう。後で調べないといけないなぁ。」

気になることをメモしながら読み進めていくと、次に用地取得マネジメントが現れるのは、平成21年3月に閣議決定された「規制改革推進のための3か年計画(再改定)」だった。

(略)こうした検討も踏まえ、事業の計画段階から将来の供用までを見据えた周到な準備を行い、必要となる施策を適時適切に講じる「用地取得マ ネジメント」を確立する。

「あれ?平成21年3月の段階でもう仮称が取れてるやん。調べる必要はなくなったけれど、誰がどこで本称にオーソライズしたのか...?」

注意しながら読んでいったが、結局それ以上の記述がなく、仮称・本称の点についてはっきりせず、よくわからないままだった。

そして、用地取得マネジメントなる語がでてくるのはここまで。ただ、同じ意味の通知は平成21年12月25日付で土地・水資源局総務課長等の課長から「早期かつ適 正な用地取得の実施等について」と題した通知が出されていた。

その通知によると、「計画的な用地取得業務の実施について 」と題して次の4つの措置が掲げられている。

  1. 予め明示された完成予定時期を目標とする計画的な用地取得の促進
  2. 適切かつ迅速な用地交渉の実施
  3. 地権者等に対する適切な説明の実施
  4. 用地交渉業務に関する民間委託の推進等

このうち、(1)が「用地取得マネジメント」の実施に関することで、(2)(3)が前に述べた不正事案の発生を受けた一連の通知の一部を取り入れたもの。そして(4)が総合補償部門登録補償コンサルタントの活用に関することだと読み取れた。

一通り読んでみたが、通知類はこれだけ。どうやら通知類は制度ができた平成20年頃に集中しているらしく、その後のものが一切見当たらなかった。何か自分が見落としたのかもしれないと不安になり、また、忙しそうにしているモッチーさんのところに出向いて尋ねることにした。

「モッチーさん。用地取得マネジメントのことだけど、制度ができたころには通知が出てるけど、それ以降は何も見つけられなかったけど...。何か読み落としているのかな?」

「見落としてないと思う。」

素っ気ない言葉だけが返ってきてしまった。そういわれると、なぜ通知が出ていないのか気になってくる。

「でも、もう10年になるんだから、何か出ててもいいと思うんだけど」
「で、本は読んだの?」
「まだ読めてなくて、最初の通知を読んで、時期が偏っていて本当にこれだけ?て思ったから、とりあえず尋ねにきたんだけど」

モッチーさんは納得したような表情でウンウンと頷きながら、眼鏡をかけ直してこちらを見た。

「まぁ、そうだろうね。本はさっき渡したところだもんね。とにかく、読みづらい本ではあるけど、一回最後まで通しで読んでみてくれる。そうそう、せっかくだから、それを読んだら、特に用地取得マネジメントの実施体制、用地取得工程管理計画に基づく用地取得の実施のところで田中さんがどう感じたか、教えてもらえるかなあ?」
「え?モッチーさんに読んだ内容についての報告するってこと?その言い方、博士に似てません?なんか嫌味っぽいよ」

と返してみたけれど、既にモッチーさんは机に向かって仕事の続きをし始めていた。こちらを見もせずにパソコンをカチャカチャとされたら、もう自席に帰るしかない。 とにかく早く仕事を片付けることに情熱を傾ける人だっていうのは本当なんだな...と妙に納得できた。

そして改めてモッチーさんとの会話を振り返ってみる。制度ができてから10年が経っているけれど、ある時期を境にして通知が出なくなっている。なぜ何も出てないの だろう?早くあのモノクロ本をしっかり読んで、全体を把握しなければ。

気を引き締めて、自席へ戻った。


通知類が出ていないことがわかった田中は、最後の砦となる小さな本を読むことにした。これから、田中は用地取得マネジメントについて、どのようなステップで理解を 深めていくのでしょうか。シリーズの最後までお楽しみください。

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