- 人を感じないコミュニケーションをする若者
- 「宝くじに当たったようなお金」を受け取っても全員が幸せにはなれない
- 次の宿題は、宗教書
相手の話を「聴く」ことで相手は変わるから、拒否されても信じて話を「聴く」。その有用性は田中も納得ですが、なぜ聴くことで人が変わるか、それをどう研修に落とし込めばいいのか、まだまだ考えることはたくさんあります。本を最後まで読むことで、答えは見つかるのでしょうか。このシリーズは今回が最終回です。
相手の話を「聴く」ことで相手は変わるから、拒否されても信じて話を「聴く」。その有用性は田中も納得ですが、なぜ聴くことで人が変わるか、それをどう研修に落とし込めばいいのか、まだまだ考えることはたくさんあります。本を最後まで読むことで、答えは見つかるのでしょうか。このシリーズは今回が最終回です。
怒鳴られても拒否されても、権利者さんがいつか変わってくれると信じて面談を続けよ、という博士の声が頭をよぎりながら、田中は創元社『プロカウンセラーの共感の技術』(杉原保史・著)を第41話まで読み進めた。
本の主張として若手が尻込みしそうなことばかり書いているので、どうやって研修に結びつけようか田中の悩みは尽きないが、新しい学びを多く得られたことに充足を感じていた。
思っていたよりスイスイ読めたので、ずいぶん本の終盤に近づいてきた。博士に借りてからまだ1週間。早く返したら褒めてもらえるかな?
なるほどと思うことも多かったけど、やっぱり気になるのは若い人たちにこの本の内容が受け入れられるどうか。この残りの部分を読むことで、それが解決できるといいんだけど。特に第41話には、若者に関わる話が書かれていた。
<第41話:ハイテク医療に求められる共感的関わり>
近代のハイテク医療の進歩には目覚ましいものがあります。......カルテは電子化されており、医師はモニターを見ながら診察します。こうしたハイテク医療においては、診察に必要な情報は患者ではなくモニター上にあるのです。患者が検査を受けると、検査結果は直ちに電子カルテに書き込まれます。
そうして、必要な情報はすべてモニター上に集約されます。医師は患者の身体に触る必要もなく、聴診器を当てる必要もありません。脈を取る必要もありませんし、舌の色や爪の艶を見る必要もありません。
......スタンフォード大学教授のエイブラハム・バルギーズ医師は、現代のハイテク医療において、患者はもはやパソコン上のデータに過ぎなくなったと言っています。彼はこのデータのことを「アイ・ペイシェント」と名づけました。
彼は、現代のアメリカの病院では「アイ・ペイシェント」が手厚いケアを受ける一方で、本物の患者は放ったらかしにされていると言っています。......現代のハイテク医療は、患者を身体的に治療する非常に高度な技術力を提供します。けれども、患者に対する心理的サポートは大変希薄です。
......私は51歳のとき、髄膜種という脳腫瘍の一種を患い、入院しました。......私は、病気をきっかけに、自分のそれまでの生き方に大きな疑問を抱くようになりました。
一つ間違えば死んでしまっていたかもしれないような病気になったことは、自分の生き方を大きく揺さぶりました。自分はこれまで何のために生きてきたのか。これから何のために生きていくのか。病気には何の意味があるのか。そうした問いが圧倒的な力をもって私に迫ってきました。けれども、ハイテク医療は私のこうした問いにはまったく答えてくれませんでした。
今の若者にとって、人間関係はスマホやパソコンのモニター画面上にあるのかもしれない。昔世代の人ならメールやLINE上での会話もちゃんと発信者の声が頭の中で響いているだろうが、リアルと仮想の境のない若者には発信者の声の音色は届いていないのではないか...。
人間関係は文字情報や絵文字で、目から情報として取り入れていくものとされ、その人を身近に感じながらやり取りするものではなくなっているのかもしれない。
"技術革新によってそれができるようになったのだから喜ばしいこと"だというなら、それでもいい。でも、目の前にいる人から何かを感じ取ること、何かをしてあげたいと思う気持ちを持つことは昔から変わらず大切だよね?
本の例の通りでいうと、カルテが電子カルテになって、データが全部モニタの上にあったとしても、目の前にいる患者の訴えに対して、時には手を握りながら耳を傾け、脈を取り、肌艶・爪の色・気力等の変化を察知しようとするのが医師ではないのか。
医師の役割とは、心理的ケアの持つ本質的な意味とは...。何なのだろう。ただ、患者側も「治ればそれでいい」ものなのだろうか。
この話は、用地交渉に行く若者ペアと権利者さんとの関係に置き換えられるだろう。
若者ペアが用地交渉に行き、権利者さんの言い分、それも表面上の言葉の裏に隠された本人でさえ気づいていない気持ちや感情を聴かずに、「移転してもらえればいい」「順序通り期日までに手続きが済めばいい」で押し進めていいのか。そんなはずはないよね。
公共事業で移転を余儀なくされた人は、一体何を考えるのだろう。
博士から前に教えてもらった話では、公共事業は街並みが整備された裕福な人たちが暮らすところに計画されるわけではないという。今の財産価値では生活再建が元から難しい方たちのところに計画されることが多いらしい。
そして、その人たちは公共事業による移転だけが苦難なのではなくて、日々の生活そのもの、職場の人間関係、家族内の人間関係等も苦難な状態。そこに公共事業による移転という新たな苦難が加えられる。ダブルパンチなんだよね。
でもその苦難に向かい合った権利者さんは、改めて人生の幸福とは何なのか、今までの生き方はどうだったのか、これからどう生きていけばいいのか、無意識であれ、問うことになるのではないか。そして、たくさんの選択肢がある中で、最も容易なものが「宝くじに当たったような補償金で、いま困っていることを解決しよう」という答えになるんだろう。
しかし、宝くじの高額当選者の全員が必ずしも幸せになっていないのと同じで、多額の補償金は幸せを保証してくれるものではないよね。
そのことにご本人が気づいて本当の意味で自分と向き合ったとき、"宝くじのお金"ではなく、働いて得たお金で生計を立てて、家族仲良く助け合って健康に生きていけることこそが真の幸せだと思えるようになるのかもしれない。
若者ペアがいくら用地補償の理論を研ぎ澄まして説明しても、どうにもならないというのがよくわかる。
権利者さんが向き合うべきは、自分の人生。権利者さんの人生の上に起こっている問題なのだから用地補償の理論なんて聞いたところで関係ない。
じゃあ若者ペアは、どうすればいいか。
医師のように権利者さんの体に触れてどうこうということはできないから、権利者さんの訴えをしっかり聴き、権利者さんがどこで問題に気づいて自らを自らの力で変えていくか、寄り添いながらその変化を見つめる、と。そういうことになるだろう。
でも、それがハイテクに慣れた今の若者にできるのか...。いや、研修を考えているんだから、「できるのか」ではなく「どうすればできるのか」と考えないと。
一冊読み終わってしまったし、研修への答えが見つかったかといわれると全然そんなことはないけれど、とりあえず博士に報告しに行こう。
「聴く」ことがどういう行動かはっきりわかったし、権利者さんの気持ちもずいぶんと理解することができた。得られるものはあったから、本当にこの本を読んでよかった。
博士が言っていた、「聴く」のは人格さえも凌駕する、全人格を賭けた戦いというのはそのとおりだと思う。自分も関わり続ける覚悟がいるし、それによって権利者さんが出す答えも変わってくる。自分たちが「聴く」ことで、結末は大きく変わるんだ。
「博士、全部読み終えることができました。すごく有意義な学びを得られたので、本当に読んで良かったです。ありがとうございます」
「もう読んだんだね、急がなくてもよかったのに」
そう言いつつ、うれしそうに笑っているやん。
早く読んで良かった。
「次はこの2冊だ。この本はキリスト者と仏教者が書いた傾聴の本だ。宗教書だけれど技術的なこともしっかり書いてあるし、経験を踏まえた内容で読みごたえもある。しっかり読み込んで、学びを深めてほしい」
手渡されたのは、「心の対話者」(鈴木秀子・著、文春新書)と、「傾聴のコツ」(金田諦應・著、三笠書房)の2冊。
「しっかり読んできます」
「あわてなくていいからね。しっかりね。あ、そうそう大ちゃん。あの宿題、がんばって考えてきてね」
博士が「大ちゃん」と呼びかけたのは我が社にいる数少ない若手、大介くんだ。大ちゃんにも新しい宿題が博士から出されているんだなぁ。
「大ちゃん、用地補償説明会の実施を受託したからね。実施は半年後の予定だ。それまでに必要な準備をしておいてほしい。まず最初は、必要となる準備作業を一覧にして、その工程表を作成してね。よろしく」
博士は田中に新しく2冊の本を渡して、若手・大ちゃんにも工程表の作成の宿題を出しているようです。博士も人材育成に力を入れてくれていますね。
このシリーズで田中は、「聴く」ことの大切さやそのための覚悟について、創元社『プロカウンセラーの共感の技術』(杉原保史・著)を通して学んできました。次の宗教書ではどんなことを発見し、研修に結びつけていくのでしょうか。新しい登場人物・大ちゃんも博士がどう育てていくのか、まだまだ続きます。お楽しみに!
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