- スポーツ新聞が用地交渉を左右していた!?
- 酸いも甘いも教えてくれたペアガシラ

ベテランの中鶴さん、通称・鶴さんがバリバリ仕事をしていた昭和の時代には、用地屋も職人のように先輩(ペアガシラ・責任者)の仕事を後輩(カバンモチ・若手)が見よう見まねで覚えていた。今では考えられないやり方だけれど、そうやって日々の仕事をこなす時代だったんだ。
今は<ペアガシラ・カバンモチ>という言葉も残っていないし、そもそも管理職がいっぱいいるだけになり、若手社員が慕っていけるような中堅の社員はいない。その人間関係の難しさが人材不足の原因の一つなんだけれど、鶴さんから教訓を学んで今に生かすことができれば、何か新しい体制づくりのきっかけが見つかるかもしれない!
「昭和時代の用地屋の間には、用地交渉でペアになった者は『親も同然、子も同然』という言葉があったんだ。正式な制度ではなくて今でいうメンターとメンティみたいなものに近いけれど、それよりもっと広がりや深みがあるような関係性だったな」
ペアは業務上の付き合いなんだけれど、親子のような関係か...。
鶴さんの経験談にはこれまでに聞いたことがない話がどんどん出てくるなぁ。
「当時はまず会社に来たら新聞を読み、それからペアで連れ立って喫茶店に行っていた。そのコーヒー代はペアガシラが支払ってくれていたし、夜の飲み代もペアガシラが多めに払ってくれていたな。やっぱり用地交渉は精神的に大変だから、飲み会が必然的に多くて、若い世代には負担でね。スナックでの2次会が定番だったけど、先輩が入れたボトルを勝手に飲んでいたもんだよ。用地役や専門役になった人間は若い世代をサポートしなければならんという認識があったから、ペアガシラがカバンモチのお金のフォローするみたいなことは暗黙の了解だったよ」
先輩が後輩のお金のフォローも当たり前だったなんて、もしかしたら本当の親子より濃い関係性なのかもしれない。まあ、そもそも今は飲み会の企画ですらためらうし、勤務中に毎日喫茶店なんて絶対に無理だけど...。おおらかな時代だったということか?
「今なら毎朝喫茶店に行くなんてサボりだと言われるよな。でも私からすると、つまらない時代になったもんだと思うよ。喫茶店はスポーツ新聞を読むのにいい場所なのにな。その頃はスポーツ新聞を読まないと仕事にならなかった。職場では一般紙を読んで世の中で起こっていること、政治や経済の焦点や話題になっていることを頭に入れる。そして、喫茶店ではスポーツ新聞を読むんだ」
前日のプロ野球の試合結果をチェック、スポーツニュースで把握できなかった試合展開を頭に入れる、競馬・競輪・ボートレースの結果、パチンコの機種がどうなったかとか...と鶴さんからは当時スポーツ新聞で読んでいた内容がスラスラ出てくる。確かに地権者さんとの世間話には使えそうだ。
「鶴さん、要は情報収集やコミュニケーションに必要なコーヒー代や飲み代を払ってくれるのが先輩、ペアガシラだったと。それが『親も同然、子も同然』ということですか?」
「いやいや、そんな浅い話じゃないよ」
◯阪神タイガースの試合結果は、熱狂的なタイガースファンが敵対心を持っている巨人戦の動向まで確認する。
◯競馬ならレースの勝ち負けの話だけでなく、単勝・複勝などの買い方ルール、騎手、厩舎まで知る。競輪・ボートも同じく。そして自分でも賭けてみる。
◯高校野球なら甲子園だけでなく、地方大会の結果も確認する。監督の戦績や、選手の出身地や兄弟・家族、アルプススタンドの応援団のこともチェック。
「つまりはスポーツ新聞のどこをどう読むかもペアガシラが教えていたよね。で、その日の交渉スケジュールはスポーツ新聞を見てから決めていた。どこまで補償金の話を進めるのかも、新聞ありきで決めていた。自営業者さんや職人さんはスポーツ新聞に載っていることを好きな人が多くて、勝ち負けでその日一日の機嫌が左右されるから、当日チェックして即スケジュールに反映させる意味があるんだよ」
なるほど。
でも昭和時代はペアで受け持つ権利者さん30、40件と持っていたと聞く。最近は5件くらいだけれど、かなり綿密にスケジュールを立てることもある。業務の進め方が全然違ったんだなぁ。
「こういう仕事のやり方が、当時の用地交渉に大きく関わっていたっていうことをわかってほしいんだ。スポーツ新聞の読み方も、地権者さんとの接し方に大きく関わっていた。でも地権者さんが好きなことを学ぼうと思っても、興味がなければなかなか情報を仕入れられないだろう。それをペアガシラが教えていたんだ。地権者さんへの共感力を高めるためだよ」
「でも馬券や舟券を買って実際にお金を賭けることを推奨するなんて、博打好きの人間を増やしてしまうとかデメリットもありませんか?」
「買っても当たらないこと、本命ばかり買ってるとただお金が減っていくことも、大穴狙いで行った方がトータルで戻りは多いことも、それらの酸いも甘いも教えてくれるのがペアガシラさ。身を滅ぼさないように自分の小遣いの範囲で楽しめよ、とね」
なるほど、そういわれるとすごく親っぽい。
若手職員が用地交渉のために勉強したギャンブルなどに依存してしまったり、のめり込みすぎたりしないように、その塩梅をペアガシラは教えてくれていたんだ。
「それは親っぽいですね。じゃあ子のときはどんなことを思っていました?」
「お金の支払い以外は【ライオンの親子】のようやなと思ったことも多かったよ」
ペアガシラはブラブラして新聞読んだり雑誌読んだりしているだけで、用地の仕事は全部カバンモチに回してきていた。パワハラまがいに無理難題を言われることも...。
鶴さんからはその当時の愚痴のようなエピソードもどんどん出てくる。まさしく親子の話を聞いているようだった。
「ペアガシラは何も知らないカバンモチに無理難題をふっかけてきていた。『技は目で見て盗め』やったしね」
一子相伝のような形で交渉技術が受け継がれていた...、まさに親子のよう!!
これが昭和時代の用地屋の日常だったんだなぁ。
ペアガシラとカバンモチの、業務の壁を超えた家族のような関係性。それは権利者の方々と話を進めていくための技術を伝えるために必要なことだったのですね。今ではパワハラとなってしまいそうなぺ アガシラの言動も、築き上げた2人だけの結びつきがあるから成り立っていたのでしょう。
次回は<ペアガシラ・カバンモチ>が当時用地交渉をどうやって進めていたのか、もう少し業務の流れを詳しくお伝えします。
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