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コラム

用地取得 達人への道

「さて今年はじめて用地取得交渉をまかされたけど、やったことがないしどうしよう…」
新人の用地職員にはつきものの悩みですね。でも心配ご無用。
本稿では用地取得交渉の手順とコツを詳しくご紹介します。

チーム用地の用地取得vol.8_チームの力で不正も予防

2020年04月21日 公開

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目標は達成するために掲げるものですが、「こうなりたい」「こうしたい」といった成果目標だけでは達成が難しいことを田中は教わりました。チーム力を発揮するため、「意義」を意識しながら業務を進める大切さも。遠回りをするような仕組みでも、実はより早く確実に効果が出るやり方がある、ということを博士は言いたいのかもしれません。今回も不正対策について、直接的ではないけれど結果的に不正が起こらない仕組みについて博士が教えてくれます。

国土交通省が通達する用地取得マネジメントの学び方と、総合補償士が推奨する初心者向け勉強法について。用地取得マネジメントの公式資料の書籍名と読み解き方、用地取得マネジメントの始まり時期についても解説。

チェックをしない、不正対策

「ところで、この用地取得マネジメントは何のために調べてもらったんだったかな?」

現場の用地部門に配属されたら辞めていく若手職員を引き止めるための研修を考えている最中だったのだが、博士に言われるまですっかり忘れてしまっていた。

「用地の若手職員が一人になっていることが原因じゃないかと推定し、その克服手段の一つとして、私が用地取得マネジメントを調べてみるように言ったわけだったよね。ところで、さっき、私が個人の行動目標がすべて達成される担保は何かと尋ねたとき、君は何と答えたか覚えているかね?」

「えーいきなり目標の話に戻るんですか。えええっと。そうそう、目標達成させるために個人を監視し、常にチェックをかけて......みたいなことを言いました。そして、私はそんなこと嫌いだとも言ったと思います」

「そうだったね。もう一つ聞きたいんだけど、その前半のフレーズ、どこかで調べた記憶はないかね?」

え?全然思い当たる節がないけれど、博士が思い違いをしているのか...。

我が社の用地取得マネジメントを学ぶために、まずマニュアルを読んで...。あっ、アレかな。

「『チェック』で思い当たるものがあります。用地取得に係る不正防止に関係する国交省の通知類に書かれていたことです」

「その通りだ。国交省通知は用地取得マネジメントシステムで不正防止をしようとはしていない。"国交省は不正防止の対策を練るのではなく、多段階に、何重にもチェックをかけて、不正が起きないようにしようとしている。そのために、数多くのチェックを行わねばならず職員の負担は格段に大きくなっている、ということだったよね」

「はい、そうでした」

「では、このチェックシステムでチーム力は大きくなると思うかね?」

おっ、チームの話に戻ってきた。誰だって、ずっと監視されていると思いながら仕事をするのは嫌だよね...。

「思わないです。私が当事者であれば、チェックシステムによる負担感が増えるばかりで、みんなで力を合わせて何とかしようという気は一切起きないと思います。そもそもチェックしてくる人のことをチームメンバーだと思えないかもしれません」

「そうだろうね。じゃあ、もう一つ。君にも会議で体感してもらった我が社の用地取得マネジメントで不正は起こると思うかね?」

「自信を持って、起きないと言えます。断言できます。用地アセスメント段階で何回も現場に足を運び、みんなで物件を見て、写真を撮りまくり、権利者をみんなで確定していきます。補償額の算定にもたくさんの人が関与していますし、聞きたいことがあれば会議で相談できます。用地取得工程計画表(総括表)には全権利者の補償額が照査完了と同時に入れられますから、横並びだって、遅れてないって、みんなで確認できます。何よりも、権利者との交渉方針を全構成員の智恵を結集して決め、それを実行し、その進捗をみんなで順次確認することにしていますから、個人が不正に手を出せるタイミングは全くありません。だから不正は起こらないと言えます」

「契約もしかりだよ。明渡しだって、みんなで確認しているからね」

博士は大きくうなづきながら話してくれた。満足そうだ。ここまで、ちゃんと大事なところを掴みながら学んでこれたようだ。

監視ではなく、確認と改善が重要

「では、大切なことを言うよ。我が社では契約ができたり、明渡しが完了したりした段階で、チームのみんなで担当した交渉員の方たちの苦労と努力を称えてねぎらいの言葉をかける。そのために、そこまでの工程をみんなで確認するんだ。監視し、チェックするために確認すんじゃない、称えねぎらうために進度を確認するんだ。行為は同じだが、持っている意味が全く違うよね。君はどちらの仕事がしたいかね?」

「そんなこと聞きます?」

ハハハと博士が笑う。つられて顔がほころんだ。

「まあ、そういうことだ。誰だって、どちらがいい職場だと思うかはわかるよね。チーム用地の用地取得マネジメント、そこにこそ、当初の回答のヒントが隠れているんだよ。用地職員が一人になってしまって仕事が続かないという問題に対するね」

アレ!?

ヒントということは...。

「それをこれから考えてくれるかね」

「つまり、まだ勉強は続くということですね」

「そりゃそうだろう。君は研修が出来上がるまで、やらないといけないんだろう?」

田中はぼんやりと「中学校の卒業式」を思い出していた。短い期間ですごく多くのことを学んだ気がする。その学んだことついて、今、まさに卒業の時を迎えた気がする。一旦、ホッと一息だ。でも、それは最初に与えられた課題に対する答えを考える出発点に立ったにすぎないということ。まだまだ勉強は続く...。今日は高校の入学式なのかもしれないな。いやいや、やっぱり少し休憩して、来週の月曜日を入学式としよう。やっぱり、春休みも必要だものね。

「やる気になった君に、いいものがあるんだ」

この間のことのように中学の卒業式を思い出し、ついつい博士への返事を忘れていたけれど、こちらが上の空になっていたことは気にしていないようだ。よかった。博士の書庫を開けて、ごそごそと何かを探している。

「博士、何か探しものですか。すみませんでした、少し考え事をしていて返事もせずに黙ってしまって。チーム用地の用地取得マネジメントをもう少し勉強して、〇〇県の研修の提案は再来週にはつくって持ってきますので、それまで待ってもらえますか?」

「まあまあ、そう急ぐな。君に見せたい本を探していたんだよ、古い本だけど見つかったから読んでみてほしい」

博士が出してきた本は「ホテル戦争」という本だった。博士の話では、日本に外国資本のホテルが進出し始めた頃に書かれた本だという。博士はバラバラと本をめくって、ここだここだと言いながら、フォーシーズンズホテルの強みについて書かれたところを指で示した。黄色マーカーが引かれたところには、こんなことが書かれていた。

毎月1回、総支配人が客室、フロント、レストラン、宴会、清掃、人事、総務など全ての部門の社員を集めて、意見、改善提案を聞く「ダイレクトライン」と呼ばれる業務改善システムを導入している。その際、全ての発言者に改善提案がフィードバックされる仕組みだ。更に、改善アイデアとして、全世界のフォーシーズンズスタッフが知恵を出す。客室料の設定や情報システムの入力方法で分からないことがあれば、メールの一斉同報で世界の予約担当者に質問を出すと、翌朝にはその答えが返ってくる。......やる気と情熱さえあれば、世界中のスタッフの知恵とノウハウを借りて、ホテル業未経験者のスタッフでも、新たなメニュー開発や新サービスが可能となるのである。

読み終わったのを見計らって、博士が言った。

「ここに書かれていることはずっと、僕の頭の中にあったんだ。そして、用地取得マネジメントの仕組みを学んだ時、咄嗟にこの仕組みと用地取得マネジメントが頭の中でイメージとして合体したわけだ。用地取得マネジメントと業務改善のシステムを合わせ、仕組みとして形を整えたのが我が社の『チーム用地』の用地取得マネジメントということだ」

「なるほど。そうやって我が社の用地取得マネジメントが出来上がってきたのがわかる気がします。そして、博士がなぜ今頃そんな古い本を持ち出してきて、私に読ませたのかも、わかります」

「そういうことだ。君の次の提案が楽しみになってきたぞ~!再来週を楽しみにしているよ」

「そうやって、あんまりハードル上げないでくださいよ!」

「いや、跳べる可能性があるならハードルは高ければ高いほどいい。君の成長にとってな。そして、『成長』という言葉もキーワードだからね」

「えっ、そんなどさくさに紛れて大切なこと言わないでくださいよ。何ですか、成長でしたね」

忘れてはいけないので、「成長」「成長」......と口ずさみながら、田中は席に戻った。


まず組織として個人以上の力を発揮できるチーム用地をつくりあげること、そしてそのチームで用地取得マネジメントを行うこと。監視ではなく、協力しあい、励ましたり相談したりできる環境を整えること。その大切さを実感した田中でした。

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いろいろと教えてくれる博士ですが、田中がいろいろなことを理解して少しずつ成長していくのがとても嬉しい様子ですね。

次のシリーズでも田中は試行錯誤しながら、これまで学んできたことをまとめ、研修用の新しい仕組みをつくるために奔走します。どんな提案を出してくるのか、みなさんもお楽しみに!

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