「用地取得マネジメント」の勉強を終えた田中が、博士に自分なりの分析結果をレポートにまとめて報告に行きます。国交省が通知する用地取得マネジメントと、何が共通点で、何が相違点だったのか。そして、その田中の分析は、博士に認めてもらえるものに仕上がっているのでしょうか。
先日、田中が博士から出された宿題は「我が社の用地取得マネジメント(『チーム用地』の用地取得マネジメント)と国土交通省が通知している用地取得マネジメントは、何が同じで何が違うのか?」だった。
その宿題を解くため、田中は国交省の「用地取得マネジメント実施マニュアル」を読んで勉強し、工程管理会議にいくつか参加させてもらって、独自の様式をじっくり観察してきた。
田中がわかったこと、感じたことをとうとうレポートにまとめ、博士に報告する日がやってきた。レポートのおおよその要旨は以下のようなものだ。
【共通点】
1.ともに用地取得期間の短縮を大きな目的にし、公共事業効果の早期発現を目指している。
2.そのため、ともに用地事務に入る前に用地アセスメントを実施し、用地取得工程計画を作成し、工事着手前に用地取得を終える工程計画を策定している。
3.ともにこれまで用地スタッフ各人に蓄積されていた用地ノウハウを形式知化し、見える化している。
4.ともに外部人材・専門家の活用を考慮している。
5.ともに個人任せの用地取得ではなく、組織力を生かした用地取得を行っていこうとする意図がみられる。
国交省の実施マニュアルに対して、違うところもずいぶんとあった。
もちろん、その形のほうが良いから、変更されているのだ。
【相違点】
1.用地アセスメント段階のリスク分析や工程計画が、国交省通知の場合非常に形式的であるが、我が社の場合、全員が徹底的に現場に通い、過去の経験を踏まえて議論を行い、個別案件ごとに細かく分析していて具体的である。
2.用地取得マネジメントで使用する各種様式が、国交省の場合は大雑把であるが、我が社の場合、非常に細かく具体的である。特に、個別案件をどのように契約に導いていくのかの道筋に全スタッフの叡智を集め、組織的に方策を決定し、その決定に従って各人が役割に応じて行動できるようになっており、責任を組織が負う仕組みができあがっている。
3.国交省のマネジメントは外部人材の活用に重きがあるが、我が社の場合は内部人材の経験とノウハウと知恵を活用するとともに、人材育成に力点が置かれている。そのため、我が社にはノウハウの承継という視点があるが、国交省のものにはその点が弱いように感じる。
レポートをまとめ終わった田中は、早速印刷して準備を整えた。
そして向かうのは博士の席だ。
忙しそうな博士をつかまえ、レポートを見せながら、一連の勉強や会議見学でわかったことを口頭で説明。なんとか思っていること、感じたことを自分なりの言葉で全部言い終えることができた。
「よく短期間に、これだけ本質に迫れたね」
博士は褒めてくれた。顔を上げて博士を見ると、そこにはにこやかな表情があった。
それが、単純にうれしかった。
私の成長を喜んでくれている。私も博士によって人材育成されているということだろうかと思うと、自然と笑みがこぼるのを止められなかった。
しかし...。
やはり博士は一筋縄では行かない人だ。思いもよらない質問を投げかけてきた。
「田中さん、我が社の用地取得をぼくは『チーム用地』の用地取得マネジメントと呼んでいると前に言ったよね。」
「はい、そうでしたね。」
「ところで、『チーム』と『グループ』はなにが違うんだろうね?」
「ええっ、チームとグループですか?」
確かに、我が社の工程管理会議に出席して素人なりに観察した限りでは、野球やサッカーのチームのような運営がされているなとは感じた。その雰囲気、そのやり方を博士が『チーム用地』と呼んでいるんだろうとは思っていた。
だから、博士からは「我が社の用地取得マネジメントは『チーム用地』だっただろう」と確認を求められるものとばかり思っていた。まさか、こんな全く予想していなかった質問が飛んでこようとは...。
信じられない。やはり博士は博士だ。慌てているのが丸わかりの表情をしてしまったが、とりあえず思いついたことを話してみた。
「チームは勝つために組織された戦略や戦術をもった組織体のこと。グループというのは組織体ではありますが、分類するために分けられただけのものだと思います」
「私に正確な答えがあるわけではないが、まぁ、おおよそそういうことだよ。」
そして、博士はこう続けた。
グループは集団だ。チームも一つの集団だ。
何らかの特性をもった集合体がグループ。チームはグループの一つ。でも、単に人を集めたグループとは違い、チームはもっと明確な目的と目標を持った集まりだと思う。
チームというとスポーツチームを思い浮かべるから、勝つために組織されたものという言葉がでてきたのだろうけれど、チームはスポーツに限らない。開発チーム、研究チームなんてのもある。
それぞれのチームに目標があるんだから、それを実現するための独自の戦略や戦術もあるだろう。また、構成員の役割分担もあり、一人ひとりがやらなくてはならないことが明確だろうね。箱根駅伝などを見ていると、これを本当に感じるね。
"チーム一丸"というけれど、みんなが同じことをしているわけじゃないはずだ。一丸=それぞれの個性や強みを生かし、でも同じ方向を向いて、個人が最大限の力を発揮する。それをチームとしてまとめ上げれば、個人力の総和以上の力を生み出せる。その総合的な力を『チーム力』と言うんだと思うよ。
こういう話をしているときの博士は、本当に年を感じさせず、生き生きしている。
まあだからといって普段の博士に覇気がないわけじゃないけれど...(笑)
この博士の勢いに押されるように、田中はこう言った。
「そうですよね。ほんとうに我が社の用地取得マネジメントは個人の力の総和以上に組織力を発揮していると感じます。そして、早期用地取得の目標をことごとく実現していて、すごいです。あれこそ『チーム用地』だと思います」
まとまった!勉強も終わりだ!!と思ったが...、これで終わらないのが博士だ。
「チームをチーム足らしめているのは、目標だ。では、目標にはどんな段階があると思う?そして、チームにはどんな目標の共有が必要なのだろう?」
「博士、いきなり難しすぎます。」
信じられないが、まだまだこの「チーム用地」の話は続きそうだ。
やっと博士に勉強の成果を報告することができた田中。博士に褒められて、本当に嬉しそうでしたね。一人ひとりの力を足し合わせるだけでなく、掛け算にして増やすことができるのがチームのいいところなのだということがわかりました。次は、そのチームが持つ目標の話題へ移っていきます。博士は、どんな"チーム論"を持っているのでしょうか。