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コラム

用地取得 達人への道

「さて今年はじめて用地取得交渉をまかされたけど、やったことがないしどうしよう…」
新人の用地職員にはつきものの悩みですね。でも心配ご無用。
本稿では用地取得交渉の手順とコツを詳しくご紹介します。

チーム用地の用地取得vol.5_独自の様式が出来上がった経緯

2020年03月02日 公開

用地取得の素人の田中が、一から「用地取得マネジメント」の勉強を続けています。初めて参加した「チーム用地」の会議では、マニュアルと違う様式で進められていることに気づき、その理由を考え始めます。そして、これまで聞いてきた博士の口癖やモットーとその会議の様式がつながっていたことに気づいていきます。

国土交通省が通達する用地取得マネジメントの学び方と、総合補償士が推奨する初心者向け勉強法について。用地取得マネジメントの公式資料の書籍名と読み解き方、用地取得マネジメントの始まり時期についても解説。

野球やサッカーの試合前ミーティングのような「チーム用地」の会議

白熱の工程管理会議を見学し終えた田中は、実施マニュアルに載っていない様式での会議を振り返っていた。

「まだまだ勉強しないといけないな...」
と会議室から退室しようとすると、マネジメント課長から声をかけられた。突然振られたので田中は焦りながらもせっかくなので気になっていたことを聞いてみることにした。

(マネジメント課長)「初めて工程管理会議に参加して用地取得マネジメントを実体験していただいたわけですが、何か聞きたいことはありますか?」
(田中)「最初から引っかかっていたのは、様式についてです。付け焼刃ですみませんが、今日午前中に用地取得マネジメントの実施マニュアルを勉強していました。そこに出ていた様式と会議で使われていた様式が全く違うんですが、どうしてでしょうか?私が見落としているんでしょうか?」

こう質問すると、会議室にいた皆の顔が笑ったような気がした。変なことを聞いてしまったかもと田中は体が熱くなるのを感じたが、結果としては大丈夫だった。

(マネジメント課長)「この会議の様式についてなんですが、実施マニュアルの様式では実際のマネジメントというか、用地交渉の進捗状況を管理することはできないので変えているんです。最初はやっていましたが、結局のところその様式ではできなかったんです。様式が違うのは、実施マニュアルで定められた大雑把な様式では一人ひとり難しい問題を抱える地権者の用地交渉を管理するのは不可能だからです。当社で、一部事業に用地取得マネジメントを入れてから約10年が経っていますが、10年の経験を踏まえて、どんどん様式を改良していってます。他の事業場所のマネジメント会議にも出てもらえばわかると思いますが、どのマネジメント会議も少しずつ違う様式を使っています。権利者や地域の状況、用地交渉の進展状況に合わせて、最も効率的な様式に変えていっているんです。特に収用段階に入ると、今日のものとは全く違う様式になります。」

でも、それなら国交省からの様式がもっと使いやすいものになればいいのでは...と思ったのが顔に出ていたのか、課長からさらに言葉を投げかけられてしまった。

(マネジメント課長)「用地取得マネジメントが全国に広まったおかげで用地取得がすごく早くなった、という話は正直聞こえてこないので、たぶんですが、私どものように様式を変えながらこんなに本格的に用地取得マネジメントを実施している起業者はほとんどいないということだと思いますよ」

わかりましたと田中が答えると、マネジメント課長が締めのあいさつに入った。

(マネジメント課長)「では、これで今日の工程管理会議を終わります。次回の会議は○月○日の10時からです。そのときまでの各交渉班の到達点とそのためにやらなければならない行動は確認できましたか?...それでは皆さんの健闘を期待します。そして、行動をするごとに、進捗があるごとに、記録簿に早め早めの入力をお願いします。また、問題にぶつかったら、迅速に私か部長に相談に来てください。この会議を待つ必要はありません。早め早めの対応をお願いします。では、工程管理会議をこれで終わります」

もう会議が終わったような雰囲気だったのに、改めて締めで次回までの行動について念押しされるんだな、なかなか会議も大変だなと思っていると、はたと気づくことがあった。

「なにか、野球やサッカーの試合前日のミーティングのようだった...。確認しあって、士気を高める...。あっ、そうか。これが博士が言っていた『チーム用地』の用地取得マネジメントということなのか」

会議に出たのはまだ1回だから決めつけるわけにいかないけれど、今日の印象は大事にしてこれからの会議にも出ないといけないな、と気持ちを引き締めながら田中は自席へ戻った。

全く具体性のない実施マニュアルに辟易

田中が実施マニュアルの勉強に戻れたのは、3日後の午後のこと。
早く勉強したいと心が焦っても、本来の業務が溜まってしまってはどうしようもない。何とか当面の仕事を片付けて、田中は続きに取り掛かった。

今日中に「実施マニュアル」の勉強は終えたいと意気込んでページを繰っていると、これから読むべき部分は「第8章 用地取得工程管理計画に基づく用地取得の推進」のところからだとわかった。この章は、まさしく会議について書かれた部分。もっと早く読んでおけばこの間の会議ももっと深く理解できたのかも、と悔しくて少し自分が嫌になった。

「やはり勉強は1日、1時間、1分でも早く始めないとな、どうせやるなら早くやったほうが得られるものは大きいんだ」

急いでページをめくり、文字の上に視線を滑らせていった。

【用地取得工程管理計画に基づく用地取得の推進】

(1) 用地取得工程管理計画書(管理用)に基づく工程管理の推進
(2) 用地取得工程管理計画の更新
 ① 用地取得の進捗状況等に応じた更新
 ② PDCAサイクルを活用した工程管理

書かれていることはその通りだけど、そこにあるのは理屈だけ。実際にどうやっていくのか全く具体性がない。これでは、どれだけこのマニュアルを読んでも用地能力が低い起業者では実施できないだろうな。

最後が「第9章 各調書の作成方法」だ。

工程管理管理会議で見せてもらった様式を思い出しながら、実施マニュアルの「用地取得工程管理計画書(管理用)」の調書をじっくりと眺めてみる。

・各年度の用地工程
・用地リスク
・予算

この3つの項目だけが書かれている。
用地リスクも、どの場所のどれぐらい困難なリスクなのかさっぱりわからない書き方だ。

リスクの最初に出てくる『区分所有建物』だって、区分所有者が20人のものと400人のものではリスク度合いが全く違うだろうし、建物がかかるのとかからないでも違うだろうし、管理組合が協力的なのか非協力的なのかでも違うと思うし、都市計画前の建築か後の建築かでも違うだろう。

この間の会議を経験したからわかるけれど、このマニュアルの様式では交渉担当者の工夫や努力が入る隙間がどこにもないようだ。これはいちばん大きい問題ではないか?交渉担当者と工程管理者が連携する場、お互いに知恵を出し合う場がどこにもない。この様式は、つまり、交渉担当者に「工程に合わせて用地契約を取ってこい」と迫れば済むように書かれている...。そんなことで済むなら、とうの昔からやっているのではないか?

まだまだ勉強をし始めた用地の素人でもわかる。
そういうことを無視して工程管理なんてできっこないはずだ。このマニュアルはどうなっているんだ...。

我が社独自の様式は、交渉担当者の行動が肝!

もやもやした気持ちを抱えながら、田中は他の事業場所の工程管理会議の見学を続けた。いくつかの会議に出てみて、最初の会議で博士が急に怒り出した意味が少しづつわかってきた。

博士の態度は一貫しているんだ。

博士は用地交渉に失敗しても怒らない

逆に、決めた方針通りにやって失敗したときは交渉班に謝る

しかし、決められたことをやっていない交渉班には怒る

そして、なぜやらなかったのか、もしくは、やれなかったのかをしつこく尋ねる。

この一連の態度は、博士の口癖ともリンクしている。

・目標をもって行動を続ける限り失敗はない
・途中であきらめたとき失敗となる。努力の途中にあるのは教訓だけである
・教訓とは、目標の実現に向けた可能性を高める行為である
・可能性を高めるためには、常に仮説を立てて行動をしなければならない
・仮説がなくては要因分析ができない
・失敗の要因分析ができて次の行動を導き出せれば、それは失敗ではない。成功へ向けた上り坂の途中に過ぎない

博士は一貫しているな。
これまで耳がタコになるほど聞いてきた口癖と、我が社独自の会議様式はつながっていたんだ。

それぞれ交渉担当者が積極的に自分ごととして動き、諦めない。それを共有して社内ノウハウから最善策を導きだしていく。その会議の様式にしなければ、工程管理なんてできないんだ。


マニュアルを読み終え、いくつもの会議に出席した田中。その様式の相違についてずいぶんを理解を深められたようです。この一連の勉強は、博士から投げかけられた宿題を済ますためのものでしたので、次回は博士に提出するレポートを書き上げます。博士に提出に行ったとき、その田中の頑張りに対してどんな反応をしてくれるのでしょうか。

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