
工程管理会議を初めて見学させてもらっている田中。工程管理表(総括表)や権利者ごとの用地交渉経緯書など、次々と知らないものが出てくる会議に汗をかきながらも、頭の中はフル回転。今回は会議でとうとう議論が始まります。どのような内容で進行していくのでしょうか。課題の発見方法や、ベテランからのアドバイス内容は必読です。
地権者と信頼関係を築き、課題を解決する
会議は順調に進んでいた。交渉担当者が報告をし、それにベテランの3人組がいろいろな質問を投げかける。逆に、交渉担当者が交渉の中で分からなかったことや法律上の問題を3人組に質問している。そこに課長らが加わり、交渉の現段階がどこにあって何が課題かを整理していく。
田中が興味深かったのは、担当部長と交渉担当者のこんなやり取りだ。
(担当部長)「□番の地権者である〇〇さん。代替地を持ってこい、といつも言っているけど、真剣に移転問題と向き合ってませんね。まだまだ、居座れると思ってるんですか?」
(交渉担当者)「現地は交渉が進んで何件か更地になってきているため、〇〇さんも移転しないといけないと考えていると思います。でも今の商売がそんなにうまくいっていない様子なので、このまま続けるかどうするかと考えているんじゃないでしょうか。なかなか決断がつかないし、この問題に向き合うのが嫌で逃げているんじゃないかと推測しています。そうなると弱みは見せられないというか、できる限りの補償金をもらいたいと、私たちには無理して強がっているように感じているのですが」
(担当部長)「周りはそれなりに片付いてきているのに、まだそんな段階では困りますね。そんな事情だったら本人もいきなり収用ですよと言われても困るでしょう。今のうちに移転後の生活について一定検討してもらう必要があります。どうしたらいいと思いますか?」
(交渉担当者)「気長に説得するしかないんじゃないでしょうか」
(担当部長)「代替地情報をひたすら持っていきながらですか?それでは何年経っても現状と変わらないですよ。説得されて嬉しい人はいません。説得されたら防衛反応が働きますし、被害者意識が出てきます。 『加害者はお前らや。お前らで移転先を探し、おれを移転させ、今と同じように商売が回るようにしろ』と考えますし、それが正しいと信じるようになります。そこに代替地情報をひたすら持っていっても将来の生活保証がないのに代替地が決まるはずがありません 。なんじゃこの土地は...と言って捨てられる、それの繰り返しになりますよ。」
(交渉担当者)「そしたら私たちには何もできそうに思えませんが」
(担当部長)「移転をし、移転先で生活や生計を再建するのは権利者の方たちですよね。用地交渉は、権利者の方に移転先での生活を決意し、計画し、実行してもらうことを後ろから押して差し上げることだといつも言ってませんか?」
(交渉担当者)「いやいや、交渉班は情報提供と気長な説得がそうだと思ってやっているので、それを否定されたら次の手が浮かびません」
(担当部長)「ではまず、代替地情報の提供はやめてください。また、移転のことを考えてくださいとは言わないでください。でもこまめに通って、今の商売のことや家族や従業員の方がどう言っているか聞いてきてください。次回はそのことを報告してください」
(交渉担当者)「もう調査算定は終わって補償金の算定は終わっています。今更、商売のことを詳しく聞いても補償金は変わらないのにですか。商売のことを聞いたら補償金が上がると勘違いされるかもしれないし、自分は言いたくないです」
(担当部長)「まだそんな交渉しかしてませんか。何回通ったか知りませんが、人間としては信じてもらえるようにしておかないとだめですよ。あなたたちが◯◯さんに対して不信感があるということは、◯◯さんはもっと不信感を持っていますよ。不信感がぶつかり合えば、どんな話もまとまりません。まず◯◯さんには移転によって生活再建を果たす能力があると信じてあげてください。相手は今の自分と一人で向き合うのが怖いから拒絶しているのです。誰かと一緒に向き合いたいのです。 周りも片付き始めたのだから、一定の焦りもあるはずです。一緒に向き合ってあげてください。そのためには今の商売に可能性はあるのかないのかを本人に客観的に眺めてもらう必要があります。とことん、今の商売と向き合い、気づいてもらわなければなりません。家族とも従業員とも向き合い、話し合いを持ってもらわなければなりません。そのためには、今の商売について我々がとことん教えてもらわなければならないのですよ。その教えを乞うという行為を通じて信頼関係を築いていってください。やれますか」
(交渉担当者)「...まだしっくりきてないですが、30年選手の部長が言うなら、一度やってみます」
なかなか深すぎてついていけないな...。ずっとこの調子なのか。
でもベテラン3人組からアドバイスがもらえて、これまでの経験からの叡智が授けられるならこんな素晴らしい会議はないな、とも思った。
皆が正直に自分の意見を述べながら、進んでいく会議。安心して聞いていられるし、なかなかいいなぁ。
誰も不幸にならない選択肢を見つけていく!
少し別のことを考えていたら、急に博士が怒ったので現実に連れ戻された。
「なんで行ってないんだ。前回の会議で、絶対に権利者の主張を聞いてこいと言ったじゃないか」
まだ土地の測量も終わっていない、最も遅れた場所のことを言っているようだ。
マネジメント課も最も力をいれているところなのだろう。どうも敷地内に里道水路が公図上はあるようなのだが、その位置をめぐって、〇〇市と権利者で意見が違っていると...。なるほど。そして現地に里道水路らしきものはなく、家が建っている、と。
担当者も納得していない顔だなぁ。
急に怒られているのだから仕方がないのか。
(博士)「前回の会議で、次回までに土地所有者に里道水路が自分の敷地にあったのかなかったのか、ないという主張ならその根拠を聞いてきて市にぶつけてみる、ということに決めたのではないか?なぜ、その通りしないのか?ただでさえ遅れた箇所なのに、益々遅れるではないか」
(交渉担当者)「確かにそう決まりました。でも市がいう公図通りでは、権利者の公簿面積が30㎡も足りません。どう考えても市の主張がおかしいと思います。それなのに、市の主張どおりでいいかとは聞きにいけません」
(博士)「じゃあ、この問題をどうやって解決するのかね?」
(交渉担当者)「市が間違っているわけですから。市は国から譲渡されたとはいえ譲渡時期に現地の状況を確認をしていないし、その後もちゃんと管理してこなかった。市が譲歩すべきです」
(博士)「市の怠慢はわからなくはない。けれど市の『公図通り』という主張はどう崩すしていく?隣接者の公簿が違うというだけでは地図訂正はできないよ。地権者が時効取得を主張するなら、一旦はこの公図が正しいと認める必要がある。きみはどうやって地図を訂正させる気なの?」
(交渉担当者)「それはわかりません。でも、固定資産税を支払ってきた面積が30㎡も減るのに、地権者が協力してくれるとは思えません」
(博士)「そりゃそうだろう。僕でも協力しないよ。でも、その30㎡は現実に地権者の家が建って使用しているんだろう。固定資産税を払いすぎているわけではないだろう。地権者が正しいというなら、正しい根拠を示さないと市も公図がある以上、折れるわけにはいかないよ。それと時間もないわけだから、解決を考えないと......。困ったときの収用頼みかね。収用になったら、権利者の人は救われるのか?」
(交渉担当者)「収用になったらですか? 今の段階でそんなこと考えたこともありません」
(博士)「収用になったら、市にも権利者にも確証がないから、この範囲は不明裁決になって、補償金が供託されるな。そして、この補償金を受け取るため、両者は高くつく境界確定訴訟を何年にも渡ってしなければならなくなる。 どちらも不幸だ。そういうことをするのがいいと君は思うのか?」
(交渉担当者)「そんなことはないですが、用地屋はそんなことまで考えながら交渉しないといけないのですか?」
(博士)「あのね、制度があれば、活用すればいいというものではない。 代執行は避けるべきだし、基本は移転先で移転した方々が幸せな生活を再開されることがわれわれの使命だ。本件で言えば、まず筆界特定を利用して、法務局の見解を引き出すことが先決ではないのかな?確かに公図はあるが、公図に手が入れられていく過程で確かに変な分筆がされており、それが里道水路の位置に影響を与えた形跡は読み取れる。しかし、証明できるほどに我々が資料を集められているわけではない。まず、法務局の筆界特定登記官の見解を得ることが近道ではなんじゃないか?」
(交渉担当者)「それなら、我々が筆界特定を申請すればいいじゃないですか? それとも市にしてもらうとか?地権者は30㎡も減るなら事業に協力しないと言っているわけですから」
(博士)「筆界特定の申請はこちらからできますか?市がする必要性はありますか?減って困るのは地権者です。地権者にしてもらうしかないんですよ。でも地権者を説得しちゃいけない。主張を聞くんですそして、それを市にぶつけてくる。市は公図がある以上引き下がれない。その結果をまた地権者にぶつける。その過程で筆界特定の申請をするしか解決策がないことを悟ってもらうしかない んじゃないんか?」
(交渉担当者)「やっと意図がわかりました。今度こそ、行ってきます」
やっと、博士の怒りが収まった〜。
議論も多いが、この工程管理会議で決まったことはマネジメント課の担当によって各権利者の交渉経緯書に書き込まれて、皆に共有されていくのだ。なかなか大変だが、すごい会議だと思う。また次の会議が楽しみだ!
初めての工程管理会議を見学し終えた田中。白熱する議論に驚きながらも、ベテランの意見を直接聞けて、担当者も自分の思っている考えをはっきり言える会議は素晴らしいと感じた様子でした。これから博士にいわれた課題をまとめるために、この会議とマニュアルを見比べて、どうして会議がこういう内容になっているのか考えていきます。なぜこの会議が行われているのか、どうしてこの形式になっているのかが解かれていきます。続きをお楽しみに。