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用地取得マネジメントを一から学ぶべく、社内の総合補償士を頼って色々と教えてもらおうと考えた田中。けれど、総合補償士から手渡された本は読みづらそうな小さなモノクロ本1冊。「公式資料はこれしかない」といわれ、自席でその本「用地取得マネジメント実施マニュアル」(大成出版発行)を読み込み始めます。どんなことが書かれた本なのでしょうか。今回はその本の内容に焦点が当たります。
「読みづらい本ではあるけど、一回最後まで通しで読んでみて」
総合補償士の資格を持った社員にそう言われてしまったら、もう黙って読むしかない。自席に戻り、気合を入れ直して読み始めた。まず、「第1章 用地取得マネジメントの必要性」から。
【用地取得マネジメント導入の背景】
・公共事業予算の長期縮減傾向 ⇒ 重点的かつ効率的事業実施の必要 ⇒ 事業効果の早期発現の要請 ⇒ 事業期間に占めるウェイトが高い用地取得期間の短縮化 ⇒ 用地取得の円滑化・迅速化
・公共用地取得が担当者の努力に委ねられている ⇒ 公共用地取得業務を定式化(形式知化) ⇒ 用地取得を組織力で行う条件整備を行う
【用地取得マネジメントの目的】
・スピーディーな事業展開を図るため用地取得期間を短縮すること
第2章は「用地取得マネジメントの概要」だが、取り立てて大したことは書かれていなかった。
次に、第3章。「用地取得マネジメントの流れ」だ。
【用地取得マネジメントの流れ】
(1) 第1用地アセスメントの実施:ルート形状決定前の用地リスクの洗い出し
(2) 第2用地アセスメントの実施:都市計画決定後の用地リスクの洗い出し
(3) 用地取得工程管理計画の策定:供用時期・工事着手時期を考慮して、用地取得期間を短縮できる効率化策の導入を検討した上で、用地取得工程管理計画を作成
(4) 用地取得工程管理計画に基づく用地取得の推進:実際の用地取得の工程管理を実施。工程管理計画を順次更新
第4章は「用地取得マネジメントの実施体制」について。
【用地取得マネジメントの実施体制】
(1) 本局に「調整会議」を設置:事業部局との連絡調整を行う課長級の会議
(2) 事務所に「事務所工程管理会議」を設置:事務所事業担当との連絡調整・情報交換・連携
(3) 本局・事務所間に「用地部局工程管理会議」を設置:用地部局間の連絡調整・情報共有
この第4章まで読み進めて、以前に「用地取得の不正防止対策」関連の通知を勉強したときと同じような違和感を感じ始めた。
確かに、国交省地方整備局ならここに書かれているような体制を組むことができるかもしれない。けれど、都道府県でもこんな体制は用意できないし、市町村に至ってはそもそも用地職員がほとんどいないに等しい状況なのに......。それに、用地取得期間短縮の方策という割に用地交渉担当者に関する記述も見られない。どうしたらいいというのか。
まあ、最後まで読めというのがモッチーさんの指示だったので、黙って読み進めることにした。
第5章は「用地アセスメントの実施」。ここからが「用地取得マネジメント」によって新たに構築された制度だ。「用地アセスメントの実施」以降は、カラー版の報告書はフルカラーになっていて確かに読みやすかった。
【用地アセスメントの実施】
権利調査・目視調査・現地聞込み調査・公的記録簿調査・地元精通者等確認調査を行って、次の4つの資料を作成する。これらの資料を作成するに当たっては、「用地リスク一覧表」を参考にするように。
① 用地リスク特定調査票
② 用地リスク工程表(単純工期)&(複合工期)
③ 用地リスク配置図
④ 用地取得工程管理計画書(原表)
ここまで読んでみて、「用地リスク一覧表」はすごく新鮮だったし、しっかりと明文化されていて、これが知識の形式知化ということなのだろうと納得できた。しかし、ここに記された「リスク」内容や「単独処理期間」というのは何を基準にして持ってきたものなのだろうか。
不思議に思うことはいろいろあるけれど、最後まで読んでいない状態でこれ以上モッチーさんに質問に行けないので、後でまとめて聞くことにしようと先へ進めることにした。
第6章は「用地取得工程管理計画の策定」で、「用地取得マネジメント」の中核になるツールに関することが書かれていた。
【用地取得工程管理計画の策定】
用地アセスメントの作業で作った用地取得工程管理計画書(原表)で工事着手予定時期までに用地取得が完了するのであれば、それをそのまま管理用の用地取得工程管理計画書にする。用地取得工程管理計画書(原表)に工事着手予定時期を入れてみて、用地取得期間がその時期を超えている場合、用地取得期間を短縮するための効率化策の導入を検討して、用地取得が工事着手予定時期の前までに終わる用地取得工程管理計画書(管理用)を作成する。
この章も不思議な記述だらけだ。
供用時期や工事着手時期ってどうやって決まっているんだろう。
そもそも用地が取得できていないと工事に着手できない。ということを考えると、先に供用時期や工事着手時期が決まっていること自体がおかしいのではないか?今までは、用地屋と工事屋が調整することもなく、工事屋で工事着手時期を決めてきたということか?
それなら、これからだって、工事着手時期が最初から決められていて、それに間に合うよう用地が買えるよう工程表を引けというに過ぎないのでは?工事には工程表があるのに、用地に工程表がないのはおかしいという工事屋の主張が通っただけなら、人間の心を扱う用地取得というものが誤解される恐れがあるのではないか?
工程表を引けば工程表通りに用地が買えて当たり前という誤解が。
それにここに書かれた記述だけを読んでいると、効率化策だけ導入すれば用地取得期間を簡単に短縮できそうに思えてくる。けれど用地は人の心を扱うものだ。それが前提としてある以上、そんなに簡単に効率化策が見つかるとは思えない。こうすればこうなると線を引くことはできないのではないか。
それと、これは博士がよく言っているから気が付いたけれど、用地取得マネジメントの一番大事なことがここには書かれていない。「難しい案件から買いに行け! 」が。
第7章は「用地取得期間を短縮するための効率化策」だ。果たして、ここまでに疑問に思ったことに対する回答は書かれているのか...。
【用地取得期間を短縮するための効率化策】
(1) 相談体制機能の充実
① 補償コンサルタント等(総合補償士、補償業務管理士7部門保有者がいる)への委任
② 専門家への委任
(2) 事務所支援体制の充実
① 移転工法等に係る検討委員会の設置
② 用地交渉支援チームの導入
③ 専門家への委託
(3) アウトソーシングの活用
(4) その他の効率化策
① 適切かつ迅速な用地交渉の実施......土地調書・物件調書を説明してから2年以内の補償金額の提示
② 行政対象暴力への対応
(5) 土地収用制度の積極的活用
(6) 地籍調査の先行実施
うう〜ん。あまり用地事務のことは詳しくないからなのか、まだまだ用地の素人だからなのか、この間、博士に言われていろいろ調べてみたことと重ね合わせると、どうも、この効率化策として掲げられている項目が本当に「効率化策」なのか余計に疑問が深まっってしまった。
(1)~(3)は別々のことのように書かれているけど、結局、外部に仕事を出しましょうということでしょ。でも「ではそうしましょう」といって外部にこんな要請に応えられる品質の高い補償コンサルタントや用地交渉員や専門家がいるものだろうか?もしいたとして、すぐに用地を取得してくれるようなレベルの高い専門家の方たちを探して、さらにお願いするための仕様書や設計書を作ったり、契約手続をしたりするのも大変な手間がかかるはず。しかも、その手間には大きなお金がかかる。かけるだけの意味があるのだろうか?
とりあえずそうした外部の方々がいて仕事を依頼したとして、その人たちにお願いして最終成果を得るのは起業者でなければならないわけだから、起業者に少なくとも高度な専門性をもった用地職員がいないとどうしようもない。けれど、そういった人材がどの起業者にもちゃんといるのかな?
そしてそもそも、総合評価の一般競争入札をするとして、公正な総合評価ができる専門職員がいるのかという疑問がある。この書き方だと、根本的に起業者側で用地職員を育てることを放棄しているわけだから、外部の専門家に仕事を頼んだって、それを管理する職員が居ない状態だから、そんな高度な人たちのことを把握してうまく回せるとは思えないけどなあ......。
土地収用制度の積極的活用といって、「3年8割ルール」をつくるのはいいけれど、ルールがあるからといって活用が進むわけでもないし。任意交渉の手を抜いてもいいですよではなくて、任意交渉のレベルと頻度を高めないと収用制度は使えないはず。さらに収用事務は用地事務の中でも何年かに1回しかないような特殊な事務で、様式が厳格に定まっているし、多くが複雑な権利関係を背後に持っていることが多いから、民法知識にも造詣が深い職員でないと処理できないはず。
これだけ公共事業を減らしてきている中で、それだけ仕事のできる収用事務の専門家がどこにいるというのだろう。処理できる人もなく、収用委員会機能を強化することもなく、どうして収用制度が画期的に活用されると言えるのだろうか...。
地籍調査の先行実施もその通りで、もちろんできればいいとは思うけど、結局、地籍調査だって10年で1%程度しか進んでいないのが実情。気になって国交省の地籍調査のホームページを見たら、進まない理由が明解に述べられていたけれど、結局のところ民と民の間に入って、調整を積み上げて細かく境界確定していく大変気を遣う仕事をする人とお金がありません、ということだった。原因がわかっているなら、それに対して策を打つしかもうないはずで、「このような形で対策し、実施率を上げました」という結果があってしかるべきなのに、できない理由を述べたのだからいいでしょう、という感じで終わらせていた。
「こんな状態じゃいくら掛け声を上げてもいい方向へ進むわけないよね......」
一人で読みながらブツブツとつぶやいているうちに、周りを見ると誰もいなくなっていた。本と報告書に集中するあまり、いつの間にか就業時間がとっくに過ぎていた。続きは明日に回すとして、今日のところはこれで帰ることにした。
モッチーさんに言われた本を読みながら、憤りを隠せなくなった田中。これからこの違和感や疑念をどのように解消していくのでしょう。そして次回は念願の会議への出席も決まります。そこではどんなことを目の当たりにできるのでしょうか。田中の気持ちの変化に注目です。
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