とうとうレポートが仕上がった田中は、最後に頭の中で考えをまとめて博士の元へ報告にいきます。「不正が実行された職場には、冷え切った人間関係があったのでは」という報告に対して、博士はどんな言葉を返してくれるのでしょうか。
不正防止に関する通知を何度も読み返し、その不正の要因が職場の人間関係にあると想像がついてレポート作成も佳境に入ったというのに田中は未だ納得がいかなかった。
そんなに冷え切った現場がたくさんあるとは思いたくない。
「冷たい冷たいっていうけれど、実際の現場は違うんでしょう?」との考えが頭をよぎる。何とか、そう思っておきたい、救われたい気持ちもある。
けれど、バブル崩壊から今日までの"失われた20年間"は、IT化が大いに進み、face to faceが極端に減った時代だ。また、公共部門の財政が厳しくなり、定員抑制が強まり、若者の数が減り、用地職員ペアの年齢格差が広まった時代でもある。つまり、ペアの人間関係が希薄になった時代であるともいえるのだ。
さらにこの時代は、国交省が用地専業という人事を見直し、ローテーション人事を始めている。用地ベテランはとても重宝されていた。逆にいうと、用地経験が長いベテランの部下を、その上司となった人間が押さえきれなくなった時代だったのかもしれない。
「でも...」、と田中には疑問が一つ浮かんできた。
今の時代はこの状況が解消され、要素が弱まったといえるか?いや、その要素は強まっている はずだ。
令和になり、IT化はいよいよ本格化してきている。ペアのジェネレーションギャップは、再任用と新人という親子より年齢幅の広い組み合わせになっている。団塊の世代が再任用者からも消えつつあり、用地ノウハウの維持継承は風前の灯火だ。
でも最近、不正の数は減っている...。
通知がそれほどの効果を発揮しているとは思えない。いよいよ暴対法が威力を発揮してきたことと、今の若者がコンプライアンス世代として少しの不法行為すらできないように教え込まれて育ってしまっているからなのかもしれないな。
田中はそんな風に考えるのだった。
ここに来るまでにいろいろなことが頭の中を駆け巡ったが、レポートとしては端的に4点にまとめつつ、正直な気持ちを書き出してみた。
田中はこのレポートを持って、博士のもとへ。
報告に対しての博士の反応は、以下のようなものだった。
「いつの間にか、君も大きく成長したね。分析が深くなっているよ。ここまで分析できたのは素晴らしい。で、用地新人が辞めていく問題と用地取得不正が起こる問題にみられる共通点は何だと思うかね?」
「そうですね。挙げるとするとIT化の進展。世代間ギャップの増大。個人情報保護、セクハラ、パワハラに対する過剰反応で何も言わなくなった職員たち。それによる職員間のコミュニケーションの欠如。さらに用地ノウハウの承継不足とノウハウそのものの不足。組織的対応の欠如。ほかにもあるかもしれませんが......要は、一人ひとりばらばらで、皆がひとりぼっち。てことじゃないでしょうか」
この田中の答えに、博士は
「諸悪の根源はひとりぼっち、てことだね。私もそう思う」 と答えてくれた。
またしても田中は博士から褒められたことになりうれしいはずなのに、なぜか本心はうれしくなかった。むしろ、寂しい気持ちになった。この気持ちはどこから来ているのだろう。
次回は、いよいよ最終回です。
『ひとりにならない、ひとりにさせないvol.7 チーム用地の重要性』をお届けします。
ひとりぼっちで仕事をすることの難しさ。
改善と業務量のバランスの難しさ。
さらに難しいだけでなく不正も引き起こしてしまう、寂しい問題だということがわかりました。最終回では、その課題に対しての答えを博士と田中は導き出します。不正防止にもなり、用地職員の退職抑制にもなる、その結論とは?お楽しみに!



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