前回は博士にいわれるがままに、県の担当者に職員が退職する理由についてヒアリングを行った田中。用地職員が置かれている現場の状況を確認するとともに、担当者から「退職する人たちは用地は孤独感がすごいと言っている」との話を聞き出すことができました。その内容に驚きつつも、"孤独感"をキーワードに、改めて退職原因の分析を始めます。
県の担当者からのヒアリングを一通り終え、パソコンに向き直った田中。
担当者が言っていた"孤独感"という言葉をキーワードに、改めて用地職員の退職原因を分析することにした。
これまで田中なりに考えた3つの分析結果をまとめていたが(※ひとりにならない、ひとりにさせないvol.1を参照 )、ヒアリングして得た情報を元に引き出した3つの分析を新たに付け加えた。
④今の用地新人は孤独である。怒られたときや、問題を抱えて解決できないときなど、苦しい気持ちを共有してくれる人がいない。それは事務所の人間関係が希薄になっているということで、頼れる人がいない状況なのだ。個人の生活や心の問題に干渉しないというのはいいけれど、助けがほしいときにも助けを呼ぶこともできなくなっている。みんな適当な距離感がつかめず、一人ずつ孤立しているのではないか。
⑤そのうえ、若者同士もつながっていない。小さいときから空気を読むことを強要され、少し変だと仲間外れにされるので、みんなと違うことを恐れ、正直に自分の弱さをさらすことができずに育ってしまっているのではないか。味方になってくれる仲間がいない、それが自己救済の道を閉ざしているのではないだろうか。
⑥人事部門が用地部門の重要性や大変さを理解せず、用地部門が必要としているレベルの人材を配置してくれないために、用地新人が成長感や達成感を味わえず、働き甲斐をなくし、転職を考えたのではないか。
3つを新たに書き加え、要因分析レポートの項目は全部で6つになった。
◯仲間がいない
◯やりがいのなさ
この3つの問題が浮き彫りになってきた。
田中はこれから、この分析結果を元に、依頼された研修内容を考えなくてはならない。自分でつくったレポートを読み返しながら考えていると「これは用地取得のスキルを磨く用地研修ではなく、人間関係構築研修が必要だ 」と正直思った。
しかし、それはもちろんこれまでやったことがない研修の内容だ。
「わが社の範疇ではないし、おそらく県は用地研修の名目で予算取りをしているだろうから、人間関係構築研修というタイトルでは予算執行もできないだろう...」
八方塞がりだ。
自分一人で考えていても何もアイデアが浮かばず行き詰まってしまった田中は、「やっぱり、こんなときは博士の意見を聞いてみるしかない」と要因分析ペーパーを持って博士の席へ向かった。
博士の前で、ここまでにわかったことと行き詰まってしまったことを報告した田中。
それを聞いた博士からは次の展開に向けた意見を聞けるはずと思っていたが、予想に反して博士が奇妙なことを言い始めた。
「田中くん。君の分析はなかなかすばらしいよ。結構本質をついているんじゃないか。急がずに、もっと別の角度から分析を進めてみようじゃないか」
田中はちょっと発言に戸惑ったが、まずは分析結果をほめられたことがうれしかった。なにせ、博士は基本的に人をほめるということをしない人なのだ。部下をほめないのはもちろん、上司をおだてるなんて芸当もできない。だから会社での出世がこの状態ーーなのは仕方がないことなのかもしれない。
勝手に想像を膨らませながらボンヤリしていると、博士は次の指示を出してきた。
「国土交通省から『用地取得の不正防止対策』関連の通達がいくつか出されているのを知っているか?まず、その資料を探して読んでみてくれ。そして不正が起こった要因を考えてくれないか。併せて、君がその通達を読んだ感想も聞かせてくれるとありがたいな」
また突拍子もないことを言い出した...。
そもそも今回の田中のテーマは、用地の部署に配属された新人が次々に退職していくからその防止のための研修を考えるということだ。用地取得に関する不正防止のための研修をしてくれといった要望が来ているわけではない。ここで博士の口から不正防止対策の資料が出てくるのはなぜなのか。
「博士。私の話をちゃんと聞いてくれていますか。今回の研修は職員の退職に関するもので、用地のベテランがやっちまった不正の話とは何も関係ないですよ」
「本当にそうか?そう言い切れるか?とりあえずその資料を読んで、そこを君に突き止めてほしんだよ。本当に無関係だということがわかれば、その旨を明日にでも報告してくれればいい。そんなに手間と時間をかけなくていいから、とにかく一度調べてみてくれ」
田中は何かキツネにつままれたような気分ではあったが、とりあえず、わかりましたと納得したフリをして自席へ戻った。

次回は、『ひとりにならない、ひとりにさせないvol.4 平成7年の事件』をお届けします。
博士に言われるがまま不正防止対策の資料を読んだ田中は、どんなことに気づいたのでしょうか。
不正と退職者の増加の因果関係は何なのか?お楽しみに。



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