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コラム

用地取得 達人への道

「さて今年はじめて用地取得交渉をまかされたけど、やったことがないしどうしよう…」
新人の用地職員にはつきものの悩みですね。でも心配ご無用。
本稿では用地取得交渉の手順とコツを詳しくご紹介します。

ひとりにならない、ひとりにさせないvol.2 ~用地屋の孤独感~

2019年09月17日 公開

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今回は、職員の退職に悩む、とある県の職員さんに田中がヒアリングをする場面からスタートします。退職してしまうまでの経緯と、考えられる原因について聞き取り、これからの対策を考えようと頭を絞る田中。そんなに退職者を出してしまうとは、現場はどのような状態なのでしょうか。

退職の引き金を引いているのは育成の方法?人事の問題?

田中は研修依頼をくれたX県の担当者に宛てて、折返しの電話を掛けることにした。
博士から言われたような詳細な状況が聞き出せるか不安だが、先方は研修ができるかどうか心配されているので、少しでも早く折り返さなければならない。

「HPS社の田中です。Yさん、研修依頼ありがとうございました」
「あ、田中さん。研修受けるかどうか検討してみますってことだったけど、どんな感じですか?」
「部長に上げたら、前向きに検討してみろということでした。どんな研修内容がよいのかまだイメージができていないので、少し質問させてもらっていいですか?」
「受けてもらえそうならいいですよ」

...内容を聞いてからでないと決められない状態だから、ドキドキする。
けれど、とりあえず何かを聞かなければ話が始まらない。

「では早速。普通、新人職員は最初に現場へ配属されるものじゃないですか?なぜ、X県では3年間も本庁に置いてから現場事務所へ出すんですか?」
「田中さんのおっしゃる通り、昔は採用後に即現場へ出していたんです。けれど最近になって、採用即現場の人たちがたくさん辞めていく というので、その対策なんです。まず本庁でしっかりと基礎を築き、自信をつけさせてから現場に出すことになりました。ところが、そうした対処をしてもやはり、現場事務所の中で用地部門と苦情処理部門だけは辞めていく 。そんな状況なので、何か対策を考えろと言われているんです。だから今回研修の相談をしたんです」

...なるほど。
退職を避ける対処法として本庁で3年間育成しているけれど、やっぱり辞めてしまうということか。何が原因なんだろうか。とりあえず現場の状況を聞き出していくしかない。

「現場に用地職員は多数配属されていますか」
「昔に比べると減っています。そもそも公共事業が減っていますし。交渉班は1班、2班なんてところが多いかな」
「用地のベテラン職員は多いですか」
「昔のような、用地一筋何十年なんて人はもういないですね。用地をかじったことのある再任用の方、もしくは現場経験が長い4、50歳台の職員とペアというパターンで仕事をすることが多いですね」

他の県でもよくあるペアの形だ。
ベテランの優秀な用地職員がおらず、追いかけるべき背中がなく目標を見失ってしまうパターンか?

「あけすけなことをお聞きして申し訳ないのですが、そうしたペア頭の方たちは優秀な人たちなんでしょうか」
「言いにくいんですが、現場叩き上げタイプですね。経験は長いですが、あまり勉強は好きではないという。地権者などの相手と対峙すれば交渉はできるけれど、難しい法律関係の話などは苦手。そういうタイプが多いですね」

やはりビンゴ。
この状況は他の地域でもあると聞いたことがある。育成と異動の話だ。

「実は他の起業者さんからもよく聞くんですが、優秀な用地職員を育てて、これから後輩の指導に当たってもらおうとするタイミングを見計らったように他部門に引き抜かれ、その優秀な用地職員が二度と用地部門に帰ってこない ことが多いそうなんです。X県さんも優秀な用地職員が異動でいなくなることはありますか?」iron.jpeg
「大ありですよ!あまり外では言ってほしくないですが、残してほしいと思う職員は異動して帰ってこず、替えてほしい職員は長く残っている。そもそも人事部門の人たちは用地経験がない人が多いので、用地部門の難しさがわかっていません。だから、"アイアンハートさえ持ってりゃいいだろう "と感じる人事になっている気はしますね」

 優秀な人材が、孤独感を不満にしている!?

人事異動は根深い問題だ。
それぞれ都道府県によって方針も違えば、人事の言い分もある。

「現場用地部門に、もっと民法等に精通した職員がほしいという感じですか?」
「民法だけでなく、さまざまに起こる問題に的確に対応できる幅広い知識と経験のある人で、かつ誠実。そして熱意があって、折れない心の持ち主かな」

そんなに優秀で知見を持つ人なら、どんな部署でも欲しがるはずだ。
1つの部署に優秀な人材を長く置いておくわけにいかないという人事部門の気持ちもわかる。

「ところで、最近退職された方はどんなことをおっしゃっているのですか?」
「本庁の仕事は、規程やマニュアルがきちんと整備されていて、やることがはっきりしている。けれど現場の用地には用地交渉のマニュアルらしきものがない 。しかたないので、ペア頭にどうしたらよいか聞くと、耐えてりゃいいんだ、自然に時間は経つ、なんて辛いことを言われてしまう。仕事の充実感も成長感も達成感もない。 そんな感じの話をしていましたね」

マニュアル世代だから、交渉のマニュアルがないのはやはり辛いだろうな。
しかも先輩からの伝承のようなものに頼るしかないのに、根性論を返されてしまえば、心の置きどころがないのはもっともだ。

「ペア頭との人間関係はどうですか?」
「年齢が離れすぎて会話が成立しないとは言っていました。先輩が再任用だったという事情もありますが。実際に、仕事への熱意が今一つだし、若手を育てようという意欲もあまりないですね」
「若手はペア頭から何か学ぼうとしていますか」
「表立って本人が言うわけではないですが、少しペア頭をバカにしているんではないかと感じています。法律のことなど質問しても答えが何も返ってこないし、機械オンチだし...みたいな感じですかね」

ふーむ。
田中はもう質問が思い浮かばないので、一旦頭を整理するために電話をそろそろ切ろうと考え始めた。そのとき、県の担当者からこんな話が投げかけられた。

「そうそう田中さん。この件で、私が不思議に感じたことが一つあるんですよ」
「えっ、何ですか?」
「辞めていく人が言うにはですよ。地権者さんが怒るのは当然で、先輩と話が合わないのは年が離れすぎているから仕方がない。だから納得できる。でも、僕・私の気持ちを吐き出せる人がいないのがすごく苦しいです。用地は孤独感がすごいです、って 。」

◯地権者が怒るのは当然◯ペア頭と話が会わないのも仕方がない◯気持ちを吐き出せない◯孤独感がすごい

新しいキーワードが出てきた。少し核心に迫ってきたような気がする。
ここはもっと突っ込んで聞くべきところだ。

「孤独感、ですか。具体的にはどういうことなんでしょう」
「私は彼・彼女らに、『でも同期たちは皆同時に事務所に配属になり、用地配属の人もそれなりにいるじゃない。その人たちと情報共有したりしないの』と聞いたんですが、そういったことはしないと言うんです。私たちの時代は同期同士で非常に仲がよかった。今は昔よりLINEなんかで簡単につながれるのに、同期の人間関係が希薄なんですかねえ」
「そういうこともあるんですねえ。非常に参考になりました。いい研修案を考えてみます」

電話を切り、コーヒーを入れ直しながら田中は改めて考えてみた。

若い人は打たれ弱く、用地交渉で怒られたときに対処できないのではないか。
用地交渉のマニュアルがないのが職場への不満になっているのではないか。
見習うべき先輩の背中がないことが目標を失わせているのではないか。
...そう思っていたが、少なくともその分析になかった"孤独感"というキーワード。

もう一度、退職要因の分析をやり直してみよう。
博士の言うように、詳しい話を突っ込んで聞かないとわからないものだな、と納得した。kodoku.jpeg

次回は、『ひとりにならない、ひとりにさせないvol.3 田中なりの要因分析』をお届けします。
田中がヒアリングから聴き出した、孤独感というキーワード。ここから導き出されたものは?田中なりに考えた結果は、博士に何と言われるのでしょうか。お楽しみに。

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