とうとう最終回を迎えます。「用地屋は1日にしてならず」との題名通り、日常生活で習慣にすべきことを博士から多く教わってきました。
今回は最後のピックアップ箇所となる"用地脚"についてと、博士がこれまで教えてくれた話のまとめとなる結論部分まで一気にお届けします。

とうとう最終回を迎えます。「用地屋は1日にしてならず」との題名通り、日常生活で習慣にすべきことを博士から多く教わってきました。
今回は最後のピックアップ箇所となる"用地脚"についてと、博士がこれまで教えてくれた話のまとめとなる結論部分まで一気にお届けします。
脚を運ぶのは大変。でも、それで自分に自信がついてくるここまでで五感がすべて出揃ったので、一通り終わりだと田中はホッと一息ついた。
毎回博士が言っていた"毎日の積み重ね"で身につければ、晴れて博士の言う用地屋の身体になれるということだろう。
しかし、博士は「本当に終わったと思うかね?」と聞いてくる。
ここまでで出ていないのは、用地腕? 用地脚?
「用地脚ですね!課長がいつも言ってますよ。『用地は脚で買うもの、自分という人間を買ってもらうもの 』って」
「そう、最後は用地脚だ。では『用地は脚で買うもの』とはどういう意味だ?」
う〜ん。課長からいつも言われているが、改めて問われると自信がない。
地権者のところに足しげく通い、交渉担当者を信用してもらえるようになれということかなと思ったけれど...。
「足しげく通えば、必ず信頼関係が築けるということかな?」
と博士に突っ込まれてしまった。
「必ずとはいいませんが、お互いを知り合えるから確率はアップすると思います。人を知るとその人に親しみを感じるようになる。それが人間というものでしょう?」と言ってみるが話が収まらない。
「足しげく通うのは地権者宅だけでいいのかな?」
「まあ、用地交渉担当としてはそうなんじゃないですか」
どうも言いたいことと違うらしく、博士の思い出話が始まった。
私が入社後、まず初めに配属されたのは、土地代の評価を行う用地部署だ。
取引事例を集めて、評価対象地と街路幅、駅からの距離、商店街からの距離、公共施設からの距離、繁華性、静寂性、地勢等を地図上で調べて比較。評価対象地の価格を求める作業をしている部署だった。
そんな作業を毎日やっていたころ、不動産鑑定士の資格も取っていた大先輩から言われたことがある。
『全部の土地を毎日見に行ってこい。公示地、基準地、評価対象地、取引事例地、その周りもウロウロ歩いてこい。そうこうしていると、評価すべき土地のほうから私は何円です、と言いよる。そうなるまで通え。それが正しい答えや。土地代は紙の上で計算して出てくるもんやない』と。
私も若かったし、今ほど時代がせわしくなくて、人材育成に余裕があったんだろう。
先輩に言われて、本当に毎日現場に出かけたよ。時間をいろいろ変えてね。
そうこうしていると本当にいろんなものが見えてきた。
公示地や取引事例地の値段が出ているから、評価対象地の値段が自ずとわかってきたんだ。
土地の値段を決めるのは難しい。当然、地権者の生活再建や契約のことも考えないといけないし、税金を払ってくれている住民の皆さんのことも考えないといけない。でも、紙の上で計算したものと違って、自分が通い詰めて得た答えには、自信が持てたんだ。
最後になって、博士のいい経験談を聞けた気がした。
脚を運んで話ができるようになれば、交渉拒否者ほど態度は一変する。
そうはいっても、用地交渉担当者としては地権者を足しげく訪れることが用地脚なのでは?という考えが離れない。
そこで、博士に話を戻しますが...と聞いてみた。
「博士も用地交渉に行かれたことはありますよね。そのとき、脚で稼いだ経験ってないですか?」
「あるよ。」
博士は、次のような経験談をしてくれた。
地権者の方、特に関西の方は行政不信の方が多いように思う。
反お上意識が根強いのかな。
そういう人でも最後には『行政は信用できないけど、あんたは信じたる』と言わせるのが私の目標だった な。
そのために決めていたことが、『怒られたら、塩をまかれたら、必ず明日訪問する』『二度と来るなと言われたら、一週間後に行く』だった。
とにかく、そう決めておかないと二度と行けなくなるんだ。
人間の心というのは弱いものだから、一週間行けないと、一カ月行けない。一カ月行けないと、上から尻を叩かれない限り行かない。
自分でルールを決めておけば、不思議と行けるんだ。
そしてそのルールに則って脚を運んでいると、「帰れ、帰れ」から、「勘弁してくれ、話は聞いてやる」に変わってくる。
話を聞き出せるところまでいけば、相手も自分が大切に扱われていることがわかってくるから、愚痴をたくさん言ってくださるようになる。交渉拒否者の方ほど、ね。
皆さん、自分の中に自分なりの問題をたくさん抱えておられるんだよ。だから、この段階で役所の側の話は押し付けず、補償の話も何もしない。この時間が大切なんだ。これが用地脚の本質なんだ。
用地脚の本筋にやっと話が戻ってきた。
田中もこれまで思い込んでいた「単に地権者宅を何回も訪問すればいいということではないんですね?」と念を押して博士に聞いてみた。
誠意をもって、誠実に通う。相手の話を聴くために通う。
そして、相手をとことん知る。そこから信頼が芽生えてくるんだ。
「対決の用地交渉」ではなく、「信頼の用地交渉」をしてほしい。
でもそこまで大変な用地交渉をしたことがないから、実感がわかない。
それは当然、と言いながら、博士の持論が始まった。
答えは現場にある。
答えが見つかるまで、ひたすら答えを求めて現場に通い詰めることが、徹底した現場主義というものだ。
今、役所の若者ができていない一番のことじゃないかい?
彼らは、業務発注して、あとは受注者にひたすら報告書を求め、報告書の体裁を整え、業者指導をすることが仕事だと思っている節がある。
会議の効率化のために、Google Earthで現場を確認しながら議論しているが、現場を確認しに行くことはそれと同一ではないんだ。現場に行けば、行くたびに必ず何か発見できる。それが私の長年の経験から言えることだ。
やっと、博士の「用地屋の身体づくり」に関する話が終わった。
用地屋になるための努力は、自分の人間力をも上げてくれる
「それにしても...」と田中は思う。
博士が言うような用地屋になろうとしたら、毎日が忙しくて仕方ない。日常生活に業務が食い込みすぎだ。
そもそも今の若い人たちは、用地屋になりたいなんて思っていないだろう。
働き方改革が叫ばれる最中に、こんなに大変で、しかも役所の中ではあまり評価されていなさそうな職務を一生続けるなんてまっぴらごめんだろう。2〜3年、腰掛で用地部門にいて、あとは他部署に移してもらおうと思っているのではないか?
そう思った田中は、最後に一つ質問してみた。
「博士、今の時代、用地屋になりたい人がいますかねえ?」
「いない!」
博士の答えは明快だった。
「それが今の役所が抱える最大の問題だ。だが、その話は用地部門だけではどうにもならない問題でもある。だが、これまで話してきた用地屋になるための訓練や毎日の習慣化の話は、用地屋にだけ有効な話に思えるかね?」
もちろん用地屋にならなくても、相手の心を感じること、目から多くの情報を得ること、脚を使って現場に通うことは大切だ。
「わが社の経営理念を語った『Challengers Note』の真ん中になんて書いてあったか覚えているか?」
きちんと覚えています。『基本は人間力』です。」
そうだ。そういうことだよ」
博士はそれ以上、何も語らなかった。
それがすべてということだろう。
基本は人間力
機械化、コンピュータ化、IT化、AI化......。
あと20年もすれば、ロボットがありとあらゆる場面で完全に人間を凌駕する時代がくるという。
ただ、今の時代ですらもずいぶん昔と変わってきたように思う。
一つ例に出すと、Amazonのスマートスピーカー「Echo(アレクサ)」のCMだ。
男性が母親とテレビ通話でカレーの作り方を聞き、それが聞き終わったところで親から面倒な質問をされると、親の話を聞かずに切ってしまう、あれだ。
親ならまだいいのかもしれないが、こんな態度が一般化してしまえば、用地交渉は成立しなくなる。話を聞いてもらえなかった人は、二度とその人の呼びかけに応えないだろうからだ。
聞きたいことしか聞かない人間は、どこかで痛いほど"それでは社会生活が営めない"ことを思い知らされるだろう。
「基本は人間力」 これは相当に深そうだ。今の時代だからこそ大切にしないといけない言葉かもしれない。
もう一度、これが意味するところを深く考えてみよう。
そう、田中は思った。
これで、シリーズ「用地屋は1日にしてならず」は最終回です。最後まで読了いただき、ありがとうございました。また次のシリーズをお楽しみに!
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