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コラム

用地取得 達人への道

「さて今年はじめて用地取得交渉をまかされたけど、やったことがないしどうしよう…」
新人の用地職員にはつきものの悩みですね。でも心配ご無用。
本稿では用地取得交渉の手順とコツを詳しくご紹介します。

用地屋は1日にしてならずvol.4 ~用地屋の段取り力~

2019年07月12日 公開

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前回は用地屋としての会話や交渉のタイミングには気候や相手の気分を察する肌感覚が大切だというお話でした。やはりコミュニケーションで相手からいろいろと感じ取ることは重要なんだなと実感できる回でしたね。

さて、今回からは、目・鼻・耳...など、五感に関係するお話が続きます。まずは、用地屋の"耳"の使い方です。博士から具体的に教えていただきましょう!

用地屋の耳は、英語耳?クラシック耳?

用地屋の心構えを博士から教わり、田中の理解もずいぶん進んできた...ような気がするが、まだまだ教えてもらわなければならないことがたくさんある。

用地屋の顔、肌と来たのだから、次は五感に関係する器官について聞いていく必要がありそうだ。

「"用地耳"って、いつも博士が言っている、地権者の話をしっかり聴くということですか?それしか思い浮かばないんですが」と田中は少し自信有り気な感じで博士に問いかけてみた。

用地耳は、情報量の問題だ

そのとおりと言ってもらえると思っていた田中は驚いてしまった。どうも、単純に地権者の話を聴くということではないらしい。

黙っていると、博士は英語とクラシック音楽のことを話し始めた。

日本語耳のままだと、英語は聞き取れない。 ポピュラー音楽耳だと、クラシック音楽は聞き取れない。 自分が『英語耳』『クラシック耳』になって初めて、聞こえてくるものがあるんだ。

博士の子どもがクラシック音楽の道にいるから、横道にそれた雑談かと思って聞き流そうかと思っていると、

この論理は、用地交渉にもそのまま当てはまるんだぞ!

博士の熱弁が始まった。 どうも、用地耳につながる話のようなので、じっくり聞くことにしてみよう。

英語耳については、日本語は平板で母音で一言ずつ区切る、英語は子音が多く、単語も文章も抑揚に富んで話される。だから、たくさん英語を聞いて、自分でも簡単な英語を毎日声に出して読んで、耳を英語の音に慣れさせる必要があるのだ、という。なるほど。

クラシック音楽も古典派までは形式がはっきりしているし、その構成で伝えたいことを伝えている。だから、古典派とロマン派のはざまにいるシューベルトの『未完成』はメロディがきれいだけれど、表現しきれないという指揮者が多い。バッハ、モーツアルト、ベートーベン、ブラームス、チャイコフスキー、ストラビンスキー辺りは聴いておかないとクラシック耳にはなれない。

用地耳は、このクラシック音楽を聞くということに似ているという。

クラシック音楽をコンサートで楽しみたいなら、その曲についてたくさんの情報を持っておけばおくほど楽しい。そのコンサートで演奏される音楽を事前に聴いておくのは最低限で、できればいいステレオで、指揮者や楽団が違う複数の演奏を聴いておく。そこまですると、当日のコンサートで深い鑑賞ができ、より楽しいひとときを過ごせるのだという。確かにそうかもしれない。

「...用地屋としては、具体的にどうしたら?」 田中は思わず、口を挟んでしまった。 そうしてやっと、博士は本題に入ってくれた。

権利者の方々の声を聴くために、事前準備が必要

用地交渉でいちばん大事なのは権利者の真の声を聴くことだったよね、と博士はいう。

序走編 にもある通り、用地交渉の主人公は権利者の方たち。 権利者がどう思っているのかが大切だから、一方的にこちらから話すのではなく、「聴き方」や「共感力」が第一だという話だった。

耳を傾けたからといって、相手の声は聞こえてこない。 用地屋の持つ用地耳は、その言葉に乗せられた感情や意味、相手も気づいていない内なる叫びを聴き取ることができなければならないんだ。 その用地耳をつくるために、事前準備を実践すること。クラシックコンサートに行く前と同じだね。

ここまで聞いて、田中には、はたと思い当たることがあった。 「事前準備...ですか?また、博士お得意の『段取り八部(※事前の準備の重要性を表した言葉)』の話じゃないですか?」

この介入がよかった。 博士は短く話をまとめてくれた。

すべての努力は、地権者の方々に寄り添うために

事前準備が用地耳をつくってくれるそうだが、そのためにやるべき基本は次の2つらしい。

  • 小説を読む癖をつけなければならない。
  • 心理学にも興味を持ってほしい。
    →ユングの"自己"概念は地権者が新しい場所に移転を果たす心理過程に似ている。補償問題以外に厳しい現実を抱えておられる方にはアドラー心理学的アプローチも有効だろう。ロジャーズ派のカウンセリング手法は聴くことの意味を教えてくれる。
    (...このあたりは軽い説明では理解できないので今日は聞き流すことにした。博士の交渉技術研修はこれらのポイントを押さえた内容なのだそうだ。)

用地屋は、多様な権利者に合わせて交渉担当者も広く浅く知識や情報を仕入れ、相手の話を聴いたときは相手の心に寄り添える態勢ができていることが必要なんだ。

けれど目的は、あくまで寄り添うこと。 自分の勉強成果をひけらかしたり、相手の間違いを指摘したりしてはいけない、と博士は続ける。

相手がスポーツファンならスポーツ新聞にも目を通さなければならない。 お年寄りで投資をやられている方なら、最新の株価や為替、金価格等の動向も話題に出るかもしれないから知っておかなければならない...。

事前準備があるから、寄り添うことができるのかもしれない。

用地耳について博士は思うところがたくさんあるらしく、深すぎてついていけないところもある。ここれで聞き返したらまた話が長くなるので、別の質問をしてみることにした。

「博士。小説を読めという話ですが、博士はどれくらい本を読むんですか?」
「実は新書派なので、小説はそんなに読まないけど、読書自体は週1ペースを崩していないよ。」
「えっ? 1週間に1冊は読むってことですか?」
「そうだよ。おもしろい小説ならもっとたくさん読めるだろうね。」
「私のように活字苦手人間にはとても無理です。」
「いや、別に同じだけ読めとは言ってないよ。それに、活字が苦手なら映像でもいい。映画やビデオでもいい。 いろんな状況で人はどんな風に感じ、どんな風に行動するのかを感情移入しながら見てくれれば、手段は問わないんだ」
「それなら、私にもできそうです。ただ、何かしながらダラダラ見るんじゃなくて、集中して見ることが大切なんですね」
「そういうことだ。それと、この言葉も覚えておいてほしいね。沢山の本を読まなければ、いい本には出会えない。もうここでは解説はしないよ」

事前準備も、一筋縄ではいかないようだ。

次回も、五感に関係する器官について。 『用地屋は1日にしてならずvol.5 〜用地屋の情報収集力〜』をお届けします。

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